2008年06月27日

小さな塵の大きな不思議

   ハナ・ホームズ  訳 梶山あゆみ  紀伊國屋書店  04.3(原作01年)
 太陽も地球も生命も、その起源をたどれば塵に行き着く。今も地球には宇宙から絶えず塵が降り注ぎ、地表からは目に見えない多種多様な塵が立ちのぼっている。それらの塵の不思議をユーモアたっぷりに案内する本だ。
 塵といえば、わたし(謫仙)の身の回りにもいっぱいあることは知っている。しかし、それ以上に目に見えない塵が大量にあることに驚く。
 あまりに小さくあまりに軽く、重力の影響をうけないかのように空中に漂う。その研究も一筋縄ではいかない。取り出した途端に消えてしまうのだ。
 なんと年に数十億トンの塵が地表から立ち上る。海からも塩の塵が三十五億トンも飛び立つ。塵は大きさの割に面積が大きい。大量になれば目に見える。遠くの薪は見えなくても煙は見える。雲は見える。
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 人体は塵の雲が取り巻いている。人がいることが大量の塵の発生源なのだ。しかも火を燃やせば大量の塵になるし、新たに人が有毒な塵を作り出している。鉱山から金属の取り出すことも、新しいものの生産・消費・廃棄も。もちろんたばこも。あの大量の石油を燃やすのは、塵に変えていることなのだ。神経を冒す水銀や手足を麻痺させる鉛。
 農業も塵を発生し、植物の胞子や種、動物の毛や糞、微生物や砂など限りがない。
 養豚場の作業員が呼吸困難になった。死後解剖をしてみたら、肺の中は豚の糞でいっぱいだった。においのするところ塵が立ちこめているのだ。
 人間の呼吸器官は、少量の塵は排除する機能を持っている。しかし、そこをすり抜ける細かい塵もある。量が多いと能力が追いつかなくなる。
 いま喘息を患う人が多い。塵が原因と言われていたが、どうやら排除機能をすり抜けた小さすぎる(2.5ミクロン以下)ハウスダストが犯人らしい。
 砂漠もそうだ。サハラ砂漠と黄土高原の塵は世界中を飛び回っている。
 サハラ砂漠からは4秒間に貨車一輛分の塵が飛ぶ。
 塵は悪事を働くばかりではない。絶海の孤島にも塵が積もり植物の種が降り注ぎ、緑の島になる。水蒸気は塵を核にして雨になる。塵がなければ湿度300パーセントになる。そこに人が行けば人の表面を核にして一気に水になり、水中にいるのと同じ状態になるだろう。
 エアロゾルも塵といえば、判りやすいか。
 塵は太陽光線をさえぎり地球を冷やす。しかし、熱を保つ。現在の問題は温暖化つまり熱を保つ方だ。どの塵が冷やしどの塵が熱を保つのか、まだよく判ってはいない。

 宇宙は塵が満ちており、離合集散して星を作る。太陽も地球も塵でできている。
 今も地上には宇宙の塵が降り注いでいる。地上からの塵もあり、それが吹雪となったとき、氷河期が終わったのかも知れない。
 中国の塵がアメリカを空爆し、サハラの塵はカリブ海から南部アメリカを空爆し、深刻な被害をもたらしているが、アメリカの塵も欧州を空爆している。地方の問題ではない。世界中がその塵を被っているのだ。その塵は人の作り出しだ毒をふんだんに含んでいる。かといって窓を閉め切ればハウスダストは更に恐ろしい。

 南極大陸に琵琶湖の二十倍もある湖があることをご存知だろうか。四千メートル近い氷の下である。五十万年ほど前にバクテリアがその中に落ち込んだ。それが目を覚まして、繁栄しているという。
 ベビーパウダーがある。あれも大量のちりであり、赤ちゃんが吸い込まないように注意せねばならない。実際吸いすぎて死んだ赤ちゃんもいる。
 塵の中にはウィルスやバクテリアも大量にいる。ありがたいことに、それは空中に浮かび上がると、まもなく乾燥して死んでしまう。そのため空気感染することは少ない。

 こんな話を聞くと世界が違って見えませんか。
 この本、平成16年の10月に図書館に入り、わたしが最初に借りたらしい。手にしたとき、裁ち落としの部分がまるで新品のようにきれいだった。わたしが読み終えたら、読んだ跡がはっきりした。
posted by たくせん(謫仙) at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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