前に紹介した千里眼には続きがある。
千里眼 ミドリの猿
千里眼の事件から8か月後、友里佐知子の後ろにいるマインドコントロール組織が姿を現す。
千里眼 運命の暗示
中国で、原因不明の、日本と全面戦争をする気運が高まる。日中を戦わそうとするマインドコントロール組織のたくらみを防ぐため、中国に赴く岬美由紀。
気功集団のインチキを見破り、それを利用して戦争を防ぐ。
そして洗脳試験に続く。
その次が千里眼の瞳だ。
千里眼の瞳
ここで日中を戦わすことに失敗したマインドコントロール組織は北朝鮮に目をつけ、北朝鮮に日本を攻めさせようとする。
北朝鮮の拉致事件とニューヨークの爆破事件を素材にしている。
これにはすでに改作が出ているので、そちらを紹介することにする。「メフィストの逆襲」「岬美由紀」の二冊になった。
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メフィストの逆襲
松岡圭祐 小学館文庫 02.7
初めに岬美由紀と嵯峨敏也2人の4年前の回想が小刻みにあるが、少しづつ切る必要が全く感じられない。読みにくいだけで、切る位置も必然性がない。
「千里眼の瞳」では、北朝鮮女スパイの李秀卿は日本語も英語も達者だが、社会認識がかなり遅れて(狂って?)いる。言葉はその社会と密接に結びついているので、これはありえない状況である。
設定された部分はかまわないが、それ以外の部分で矛盾があると、違和感が生じる。特にこのシリーズは、そのような心理の微妙さを題材にした話であって、その齟齬が物語に影響を与えるはずである。
日本の欠点を正確に知り、とっさにそこを突くことができるほどの能力の持ち主が、日本の良さが判らず、北朝鮮の欠点に気付かないことがあり得ようか。
改作では、このような疑問がかなり薄まる。加筆された300枚は、メフィストのダビデを登場させ、狂言回しをさせているが、「千里眼の瞳」の矛盾を改めることが最大の眼目ではなかったか。
わたしは、細かく比較する気はないが、この矛盾は気にならないほどになり、素直に小説を楽しむことができた。

日本海岸、父親の目の前で13歳の少女が忽然と姿を消した。会場には北朝鮮の不審船が出没していた。
そして4年後、北朝鮮の工作員と見られる李秀卿が、千里眼と言われた岬美由紀の前に現れた。日本語はスパイ養成所で徹底的に訓練を受けたらしい。しかし、どこかおかしいところがある。言葉だけで現実が見えていないと言うことか。嵯峨敏也が休養のため長崎のハウステンボスに暮らしていたのだが、その写真を見て、オランダに潜入する工作員の養成所だと思う。街を歩いていてゲームセンターに入れば、戦闘員養成所だと思う。東京カウンセリングセンターを、スパイ養成所だと思いこんでいて、そこに潜入してくる。それほど日本を知らないのに、それでいながら他の場合では的確に話せる矛盾。矛盾は薄まったとはいえ、どこか残っていておかしい。
日本の欠点を言い、北朝鮮を賛美する。その原因は洗脳。しかし、日朝の圧倒的な経済力の差や生活レベルの差を自分の目で見れば、これほどの知性の持ち主なら、北朝鮮の欠点に気が付くはず。気が付かないほどの能力ならスパイは務まらないだろう。この理由も少し説明している。
日本のお役人の無能力無責任や、会社の組織の無責任さを言及しているが、これは少しずれを感じる。この著者は実際に勤務した経験がないのかも知れない。
別な本だがマジックオタクの社会に適応できない少年が、家出した潜伏先で水商売の店長をしていた。不可能の四乗。
前作でマインドコントロール組織メフィストは日中開戦を企んで、その計画を美由紀に潰された。今回は北朝鮮をけしかけようと目論む。
日本殲滅を企む北朝鮮人民思想省。それを利用し日朝を開戦させて一儲けを企むメフィスト。両方のマインドコントロール組織が、美由紀を目標にした。