2008年08月13日

月の影 影の海

  小野不由美   講談社   1992.5
 十二国記シリーズの序に当たる。

 舞台のモデルは中国。しかし、現実の中国ではなく、封神演義や西遊記などの幻想の中国。神仙思想の世界である。
 難しい漢語やありえない読み方などを多く使い、ふりがな無しには読めない。
 同じような文(文体は違う)の作家に宮城谷昌光がいる。宮城谷昌光はうまく翻訳できないという仮面を被り、日本語に訳さない漢文読み下し文のような文を書く。実はそれが創作文なのだが、その仮面は薄く、誰でもその奥が見えて、その漢語の知識は後にはイヤミに近くなる。その漢語は他に使い道がなく、憶えようがない。
 小野不由美は逆に仮面を被らず、「わたしってこんな凄い漢語を知っているのよ、読んで読んで」と言っているようだ。漢語の雰囲気をつくるのに苦心しました、と白状しているようで、親しみが持てる。
 庭院に「おくにわ」と仮名をふる。政には「まつりごと」と仮名。鬣に「たてがみ」。憶えていれば役に立つ知識だ。
 耳障りなときは「耳障り」。当たり前だが、多くの人が「耳障りのよい」と意味不明の文を書くのだ。
 ついでに言うと、岡崎由美に代表される金庸小説の翻訳者グループは、漢語が多いのに見事にこなれた日本語になっている。
 小野不由美は日本語の語りは現代的なので、現代人がコスプレで古代を演じているようだ。物語もそのような物語。

        tukinokage.jpg
  左手では剣訣を作っているのが中国的(^。^))。右手は不自然。

 高校生の陽子が、学校から拉致に近い形で十二国に連れ去られる。十二国は虚海に囲まれた幾何学的模様の大陸と島で、十二の国があり、虚海の東の果てに蓬莱即ち倭つまり日本があるという。
 ここでは国王は神になり、失政がない限り、死ぬことはない。そして新しい国王は麒麟(きりん)によって指定される。麒麟は宰相となり国王と生死を共にする。麒麟のような半獣は人の姿をしたり獣の姿をしたりする。
 陽子は麒麟によって王と指定されたのだが、そのことを知らないのだ。到着と同時に麒麟は囚われの身になり、陽子は事情が判らぬままひとりになる。そこで絶えず妖魔に襲われ瀕死の重傷を負い、死を覚悟したりする。また何度も騙されたり、何日も食べるのものがなく飢えたりして旅を続ける。
 普通陽子のように十二国に来た人は言葉が通じないが、陽子は通じた。このことなどから自分が特別な人であることを少しづつ自覚することになる。
 結局、東の慶国の王になる。王の名は景王である。ここでは戴国の王が泰王、巧国の王が塙(こう)王、雁(えん)国の王が延王と、日本語読みで同じ音になる(雁をエンと読むのは日本語にはないが、現代中国語読みはyanイェン)。現代中国音では、慶はqing、景はjingで読み方が違う。昔は同じだったらしい。
 この話はシリーズとして長く続く。

 著者は1960年生まれ、この本が発行された当時は32歳か。書いたのはもっと前だろう。才気渙発な若手のイメージ。いい方に流れている。悪い方に流れると旧仮名で文を書いたりするのだが、そんな経験もありそうな感じがする(^_^)。
posted by たくせん(謫仙) at 08:34| Comment(4) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
 十二国記、まずは滑り出しは大丈夫だったようで良かったです。最初からつまるとお勧めといった手前どうしようかと思っていただけにほっとしました^^
 長い物語ですが、どうぞ楽しんで下さいませ。

 ちーねーさん
 あらら。ちーねーさんもうちのとこで知られましたか。昔からサイトを作っては一年から二年くらいで潰してしまうので、けっこう前後関係とかいいかげんにしか覚えていないんです^^   
 今もまた新しいサイトつくってますのでまた遊びにきて下さいね〜。
Posted by 樽井 at 2008年08月14日 12:43
この後も楽しんでいただけるといいなあ。
どの人物も魅力に溢れていて、読むたびに感情移入してしまいます。
陽子はどんどん成長していきますよ。
延王は出自が瀬戸内の水軍の頭なので、身近に感じます。

樽井さん、お元気そうで何よりです。
泰麒君がどうなってしまうのだろう、と心配しておられましたね。
あれで完結なのでしょうか?
Posted by ちーねー at 2008年08月15日 02:09
樽井さん。
もともと、SFファンのわたしはこういうプロットは抵抗ありません。いかにもっともらしく読ませるかですね。
躓く人は、「荒唐無稽でバカバカしい」。この荒唐無稽なところが面白いのに。
わたしが驚いたのは王宮のある所と雲海の設定。思いがけないアイディアでした。
新しいサイトですか。読書と仕事を分けるのかな。期待しています。
Posted by 謫仙 at 2008年08月15日 10:37
ちーねーさん。
「黄昏の岸 暁の天」を読みました。登極の三年後あたりのはなしですね。その前にいろいろとありますが、それはこれから図書館に手配します。

この中に大使館のようなものをつくって、自国民の保護に当たるという提案。考えてみるとこの小説世界では珍しい考え方。
王国では、いかに民を植えて、収奪するかを考えるもの。民の保護とは相容れない考え方でしょうか。

麒麟が雌雄で、麒が雄で麟が雌というのもはっとします。知識としてはあったのに忘れていました。鳳凰も鳳が雄で凰が雌。
こんな話を更に発展させた想像力に感服します。

延王は瀬戸水軍の出自となると、人名だったのかな。まだ読んでいません。たのしみ。
Posted by 謫仙 at 2008年08月15日 10:54
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