2008年08月21日

殺人事件は増えているか

 先日もテレビで殺人事件が異常に多くなった、と取りあげていた(サンデーモーニング)。
 出演者のひとりは「統計をみると多くなっていない」と言っていた。わたしも多くなったとは思っていなかったが、念のため統計資料を調べてみた。
 以下は警察や法務省による統計資料である。
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/toukei.htm# 刑法犯認知件数
途中で分けたのは、別な資料からで統計に多少の差がある。
 年 殺人認知数
1958  2683  未確認

1988  1476
1989  1349
1990  1261
1991  1252
1992  1275
1993  1272

1994  1279
1995  1281
1996   1218
1997  1282
1998  1388
1999  1265
2000  1391
2001  1340
2002  1396
2003  1452
2004  1419
2005  1392
2006  1309

2007  1199


 07年は戦後最低を記録している。これらの数字を眺めて増えたと見るかどうか。
 殺人事件の多かったのはおそらく戦争中であろう。戦死は除いても、末期には上官にいじめ殺される新兵の数は、戦死者より多かったという説もある。
 戦前も軍国主義の時代に日本のモラルは崩壊しており、殺人は日常茶飯事であったようだ。それがピークに達したのが戦中だ。
 戦後の混乱期も多かったと推定される。まともな資料さえないと思える。このころは統計上は犯罪が異常に少ない。軽い犯罪は無視されたのだ。
 最近20年間の推移を見ると、1200〜1400くらいで安定している。増えている状況ではない。
 二十年以上前に、なだいなださんが、増えているという一般の声に対して、統計資料を使って増えていないと説明していた。わたしはそれ以来、増加説に疑問を持っていたのだ。
 実はこの統計数字の信憑性が問題なのだ。この数字は認知数である。認知数とは実際の殺された人の数ではない。殺人未遂なども入る。予備も入る。それでも事件は殺人事件なのだ。そうなると実際に殺された人の数はこの統計では出ない。さらに統計に入らない殺人もあるだろう。行方不明は入っていない。事故死・交通事故死・自殺と認定された殺人もあろう。このようなあるかも知れない数を暗数という。警察の捜査も進歩していて、暗数も減っているのではないかと推測される。
 七十歳の老人が、九十歳の親の介護に疲れ果て、もはや自分が介護されなければ生きていけない状況になって、親を殺し自殺を図る。これも殺人事件で実刑判決を受けるが、実刑は自殺を防ぐため。自殺の心配がなければ、そのまま帰される。凶悪な殺人事件ではない。おそらく戦前なら見て見ぬふりをされたのではないかと推測するが、これはわたしの根拠の薄い推測。
 やくざの組員が、組長に拳銃を渡され殺人を命令されて、警察に逃げ込む。事件は防げた、と思うが、これも殺人事件一件と数える。
 そんなわけで、減ってはいると思うが、統計だけでは確信は持てない。もちろん増えているとはとてもいえない。つまり実数が増えている可能性もある得るのだ。河合幹雄氏は実数は七百人弱と推定している。問題はこの中の凶悪事件だが、それが統計では現れない。
 殺された人は約七百としても平均毎日二件あることになる。サンデーモーニングで、毎日のようにあると驚いているが、統計では毎日あるのが普通だ。

安全神話崩壊のパラドックス  岩波書店  河合幹雄  04.08
34ページ
  satujinjiken4.jpg


115ページ
   anzensinwa45.jpg
 河合氏が自分で作成したものだという。今から見ると少し古いデーターだが、ここに引用させて頂く。
posted by たくせん(謫仙) at 06:15| Comment(7) | TrackBack(0) | 山房筆記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
殺人事件はあってほしくないのですが、現実には、次々と
起きていますね。
数は、確かにそう変わらないのでしょうね。
ただ、最近の傾向は、殺人願望というか、誰でも良かったというのは困りものですね。
殺されるほうは、たまったものではないですね。
こちらでも、時おり事件が発生していますか、昔と較べて多いとはいえないようです。
ただ、話題になるような事件が多く、マスコミに大きく取り上げるような事件が多いのは事実かもしれません。
いずれにしても、こうした事件がないことを祈りたいですね。
Posted by オコジョ at 2008年08月22日 11:57
オコジョさん。
今日、グラフをもう一枚追加しました。1946年から2002年までの殺人事件の数です。本文中にも書いたように、これは事件の数であって、殺された人の数ではない。
でも全体的な傾向は判ります。
終戦直後は、数が少ないがこれは、データーが不完全と思えます。それ以外は減る傾向にありますね。但し最近は増え気味かな。でも増えていると驚くほどではありませんね。
問題は無目的、「誰でもよかった」という、ある意味素人の事件でしょうか。プロでは入り込まない部分に素人が進出している、とでも言うような幼稚な事件が多いようですね。だから話題になる。ヤクザ同士の抗争のような事件ではありません。
だから…、だから怖い気がします。無関係の人が巻き込まれる。これがニュースとして何度も流れて、危険になったと錯覚することになるんでしょうね。総件数は変わらなくても質が変っていますね。
近いうちに「安全神話…」をアップする予定です。
Posted by 謫仙 at 2008年08月22日 19:29
こんばんは。
 行方不明者の数とかはどうでしょう?
昔と違って、行方不明者、の数は増えていて、それが表に出ない殺人になっているような気(あくまでこれは単なる推測、感覚です)がしたりするのですが、どうでしょうか? 戦後はともかくとして、昭和中期までと違って、いまどきだとなんらかの犯罪にまきこまれて行方不明になってもわからないのが多い様な気もするのですが。。
Posted by 樽井 at 2008年08月23日 03:01
樽井さん。
統計の暗数の問題は判らないとしか言いようがないのですが、それはともかく。
行方不明者は統計資料を探してもなかなか見つかりませんでした。断片的に何年は◯◯人とありましたが、それだけでは根拠にはできませんし。
事故と判っているものはともかく、行方不明の理由が不明なものは、まとまった資料は見当たりませんでした。
ただ増えているとは思えないんですね。昔の方が多かったと思います。
犯罪が巧妙になりましたが、殺人は捜査技術も上がり、見逃すことが多くなったとは思えないンです。
それに、今問題となっているのは、殺人の幼稚化でしょうか。
結局、不明としか判りませんでした。せめて30人とか100人とかの概数が判るといいンですけどね。夜逃げが多いかなあ。
なお、行方不明は欧米の方が多く、アメリカでは年間100万人という説もありました。戸籍制度の問題のようです。
Posted by 謫仙 at 2008年08月23日 07:04
殺人実数についても間違いなく減ってます。

参考
http://209.85.175.104/search?q=cache:c65KTS4jIUQJ:db1.pref.hiroshima.jp/data/tone/14/tone-ad03.xls+%E5%BA%83%E5%B3%B6%E3%80%80%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E5%8B%95%E6%85%8B%E7%B5%B1%E8%A8%88+%E3%80%80%E6%98%AD%E5%92%8C%EF%BC%93%EF%BC%97%E3%80%80%E3%80%80%E4%BB%96%E6%AE%BA&hl=ja&ct=clnk&cd=1&gl=jp
昭和40年前後の殺人死亡者数は1400人前後です。

参考2
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2776.html
これが近年の殺人被害者数です。600人程度です。
Posted by はが at 2008年09月11日 08:20
「殺人が減っている」と認めたくない方が
「殺人は減ってない。殺人技術の向上により自殺、事故、行方不明などに偽装され隠蔽された殺人が増えている」
と主張する場合がありますが、いろいろと奇妙な理屈です。

まず「殺人が増えている」とマスコミ報道などで感じているから「殺人が増えている」と主張しているのに
何故「殺人の暗数が増えている」などというのでしょうか?
「暗数」とは把握できないもののはずなのに奇妙な話です。
勿論「隠蔽された殺人」がないとは言いませんが昔も今もそれはありました。

第二に「殺人技術の向上うんぬん」が根拠ないです。仮にあったとしても捜査技術の方もDNA鑑定などかなり向上してますので相殺されます。
それに昔の方が各地にあった地方コミュニュティにより隠蔽された犯罪は多かったとも聞きます。
東北の間引きなどは昭和初期まで把握できない程あったそうですし。

何より「隠蔽された殺人がある」というのは、せいぜい「疑問を入れる」程度の効果しかなく統計データとは対等のものではありません。
Posted by はが at 2008年09月11日 08:31
はがさん。貴重な情報ありがとうございます。
わたしが揚げた統計以後でも確実に減っていますね。
隠蔽された殺人は、殺人者しか知らないはずなので、多くなったと主張するのはどこかおかしい。多くなったと思えるとしかいえないでしょう。
そもそもマスコミで報じられなければ、普通の人には判らないはず感じられないはず。
暗数はわたしは減っているような気がします。
間引きは例外にしても、本文にも書きましたが、寝たきり老人なども、まわりの人は感じていても知らぬふりをしたことでしょう。敦煌(わたしの旅行記)で聞いた話も、そんなことを匂わせました。貧しく余裕のない世界では、ありそうな気がします。軍国時代では軍務につけない貧しい人は、人間扱いされなかったようですし。
結局、暗数はそのようなことから感じられるのであって、わたしは昭和から平成にかけて、減っているように思えます。増えているとは感じられないんですね。
統計が正しいとは限りませんが、この件に関しては、無統計の憶測よりはるかに実情を映していると思います。
Posted by 謫仙 at 2008年09月12日 08:11
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