2008年08月27日

安全神話崩壊のパラドックス

   河合幹雄   岩波書店   04.8
「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らいでいる。はたして犯罪が増加し、凶悪化しているのか。
 統計資料を駆使して、この問題を分析して、通説が現実を反映していないことを考証している。
      anzensinwa.jpg

 日本の状況を説明し、欧米との比較をしている。そして問題点の指摘や、今後のあり方を模索する。

 まず日本の犯罪が少ないその理由をあげている。
 従来は繁華街と住宅街、夜と昼、犯罪者グループと一般のグループ。というように区別が明確だった。ところが最近はこれらの区別が明確ではなくなった。
 犯罪社会に無縁の人たちをウサギに、犯罪社会に住む人をオオカミにたとえ、その棲み分けで説明する。
 棲み分けの例に、オウム事件の加害者のこどもたちを地域から追い出すことをあげている。追い出して自分たちの住む地域の安心感を得ているのだ。
 昔、女の子が夜に繁華街を歩くのは怖かった。しかし、いま女子高校生がひとりで歩いている。
 それだけ繁華街は安全になっている。では繁華街の犯罪はどうしたか。これが住宅街に進出したのだ。いままで、住宅街では鍵をかけずに留守にすることができた。今では危険を感じるようになったのだ。
 ただ、犯罪者といえども勉強が必要。スリでも空き巣狙いでも詐欺でも、いきなりやろうと思ってできるものではない。だがその訓練の場も拡散している。そのため、訓練されていない素人のメチャな犯罪が目立つ。

 著者はフランスに留学していて、フランスの社会と比較している。
 フランスでは死刑廃止の声が強い。もっともらしいが、実は日本で死刑になるような犯罪者は、逮捕の時にすでに射殺してしまっていることが多い。ここでは躊躇はしない。無事に逮捕された人は死刑にする必要がないとか。

 新聞報道によくある、犯罪者数の急な増加。犯罪には知られた犯罪実数と知られない犯罪暗数がある。この暗数には、警察の取り扱い方で表に出ないものがある。急な増加といっても取り扱い方が変わっただけと言う場合が多い。主婦の買い物籠から買い物がひったくられた。これを強盗(窃盗)と数えるかどうか。交通違反をどう扱うか。これだけで九十万近い犯罪者が増減する。それでいながら交通事故は犯罪とはされない。

 殺人事件の中には、殺人予備罪(二十件くらい)と殺人未遂が含まれる。で、実数の統計が存在しないという。
 推理小説で「◯◯殺人事件」と言うのが多いが、この題名で殺人未遂や予備罪を予想する読者はいないだろう。
 著者は実数などを自分で計算して、グラフを作っている。
 2002年だが、禁固10年以上になった犯罪はなんと213件。この辺りが凶悪事件といえるか。
 以上をふまえれば警察の検挙率は大幅に上下する。特に検挙率100パーセントの犯罪もある。検挙できなかったものは犯罪とはみなされないものもある。政府高官の収賄罪などだ。最も凶悪と思える強盗殺人は、分類では、殺人ではなく強盗致死だという。
 統計の問題で、警察が事件にするかどうか、という問題がある。これを「前さばき」として、以前は事件としなかったのを事件とするようになった。これで急激に犯罪が増加する。検挙率は名目は下がることなる。ひとりが100件の泥棒をやる。警察は判っていても実証するのは大変なので主な事件10件にとどめて起訴すると、90件は未解決となるのだ。犯人は牢の中なので、これで捜査を打ち切る。検挙率が下がることになる。
 そんなわけでなかなか実数がつかめないが、次のグラフのように減少傾向があると見ていいのではないか。

satujinjiken4.jpg

anzensinwa45.jpg

 さて外国と比較するのはどうか。まず警察能力の差で壁にぶつかる。暗数はつかみきれない。だから単純な比較は参考にはなるが、意味が薄い。
 たとえば銀行強盗、欧米ではどこの支店でも経験があるのが普通なのに、日本では珍しい。推測で1000分の1と予想している。
 自転車泥棒、日本ではかなりの数を占めるが、諸外国では特にアメリカでは相手にされない。犯罪の数に入らないのだ。
 自動車では、保険で補填される場合は届け出が多いが、補填されない場合は届け出が少ない。届け出るのは保険のためなのだ。

 さて犯罪者のグループが拡散し連帯が希薄になると、技術が継承されず、若い犯罪者は厳しい訓練を拒否し、犯罪技術の低下が見られるという。住宅地に拡散し稚拙になると、一般の人にとって危険度が増すことになる。この辺りに統計と感覚のパラドックスがある。

 ここらから日本の犯罪の少ない理由を考察している。
 隣近所みんな顔見知り。どこに住んでいて、職業は何か、家族構成はどうか。
 そのような社会では犯罪はしにくい。そして、万一の時も小グループ(家族・学校・地域・会社・各種団体など)の実力者が叱ることによって終わる。それは法よりも強い。
 それで警察に捕まっても牢に入れられることはまずない。
 それでも律せられない場合は追い出される。行き先は暴力団(犯罪者集団とは限らない)などになる。棲み分けだ。きわめて政治的になり、政治家は暴力団をかねていることが多い。
 グループは、祭りの時は屋台などで稼ぎ時であり、犯罪は少なくなることになる。暴力団が秩序の維持する側になることが多いのだ。
 欧州では民族問題・宗教問題が先に立つ。それを一律に律しようとすると無理が生じる。

 ところで、日本人が無防備な理由の一つに、盗まれても、犯人がそれを換金しにくかったということがある。換金するにはまた別な技能が必要で、盗む人が少なく無防備になる、ということがある。ただし最近はは広域になり、外国まで視野に入るため、換金しやすくなった。防御が必要になる。
 田畑は囲われていなくても、盗まれることはなかった。今はサクランボや梨などが盗まれる。翌日には都会で売ることができるからだ。

 棲み分けと言ったが、必ずしも住所が別れているわけではない。ヤクザも、住宅地ではシゴトをしないという意味だ。欧米ではそのような自律がないため、住宅地そのものを分けてしまう。そのため地域と犯罪の質が偏る。

 このように日本と外国の質の違いを論じ、日本の今後のあり方、方向性を示す。それにはおおむね賛成とは言っても、あちこちに賛成できないところがある。
 隣近所顔見知りの関係に戻れと言うが、都会では無理だ。それがいやで都会生活をしている人もいる。わたしも隣の部屋の人とは、十年近くなるが一度顔を合わせたことがあるだけ。仕事も時間帯も年代もことなり、わざわざ顔見知りになる気にはなれない。それほどのエネルギーを費やす気にはなれない。犯罪の質も変わってきて、エネルギーを費やした割には防ぐ効率はよくない。
 警察の取り調べにビデオを入れると、うまくいかないと論じる。弊害があるかも知れないが、ビデオを入れない弊害の方がはるかに大きそうだ。
posted by たくせん(謫仙) at 07:34| Comment(8) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何か、数字のマジックをしているみたいですね。
時代によって犯罪も変化して行くのでしょうね。
単純な比較は難しいようですね。
海外も何度か言っていますが、治安のいい国でも、
神経を使います。

仕事用の道具がどこかに行くなんていうのは、
そこに置いた方が悪い・・・

外国と較べると、日本は安心していられますね。
隣の人が誰かわからなくても・・・

分けのわからない犯罪は増えているものの、
私が今まで、犯罪と一切関係なかったことを考えると
平和な国のようです。
Posted by オコジョ at 2008年08月29日 22:21
凶悪事件から軽犯罪まで、また違反と事故の取り扱いなど、「前さばき」で年間100万件の事件があったりなかったりしてしまう。
新聞でも見出しだけで終わらず、内容まできちんと読めばそのような疑問についても書かれているようですが、なかなかそうはいきません。
外国の場合、犯罪者より警察の方が怖いという話もあり、とにかく日本のようにはいかないでしょうね。
わたしは何度か中国ツアー旅行をしていますが、空港からホテルまで別に運ばせた荷物が、すべて開けられていたこともありました。運送会社そのものが犯罪組織とびっくり。
見かけだけでは判りませんね。
アメリカでは人口800万のニューヨークの殺人が日本全体と同じくらい。それでも安全になったと褒められています。
わたしが警察を呼んだのは…、読売新聞の営業マンが来たときくらいかな。平和です。
Posted by 謫仙 at 2008年08月30日 07:40
>実は日本で死刑になるような犯罪者は、逮捕の時にすでに射殺してしまっていることが多い。

いわゆる悪質なとか凶悪なとか言われる事件ですか。キリスト教的な思想背景はどうなんですか。
例えば抵抗する者は射殺し、素直に降伏する者は殺さないとか。
都会生活で田舎の隣組のようなものは無理です。自分の家に住むならともかく、アパートマンションでは、顔を合わせる機会さえない。万一顔を合わせることがあったら挨拶をする。その程度ならできますが。わたしも隣の人の顔を見たことがありません。女房のつきあい先の人とは会ったことがあります。
このままでは、濡れ落ち葉と言われそう(古い)。
Posted by mino at 2008年08月30日 14:39
minoさん。
キリスト教的にいえば、キリスト教徒以外は人間扱いしない。暴れている犬を殺す程度の気持ちかと。
言い過ぎかな。とにかく、日本人には想像もつかない精神構造のようです。
実はわたしは中国人も似た思想があることから推測します。
法は官にのぼらず、礼は官を下らず。
官は法律を適用されない。礼律によって縛られる。だから庶民を殺しても法は適用されないので、罪にならない。この心情に似ているのではないかと思います。

奥様のつきあい先、どうしても近所づきあいは女がリードしますね(^_^)。
Posted by 謫仙 at 2008年08月30日 20:02
頭の痛い話ですが、、自分の不注意もあるのですが、、、えー、国内でも犯罪に巻き込まれることはしばしばあります。例えば、自分は、傷害事件にまきこまれること二度、詐欺にあうこと二度、泥棒に入られること一度、車を壊されること一度、とこれまで6回警察に訴える被害にあっています。訴えなかったのを入れるとまだあります。 
 なので、そんなに安全な国という印象はないんです。
 自分、身長も180越えるし、まぁそこそこ人並みの知能はあると思うんですけれど、そういうケースに巻き込まれています。自分自身が被害にあったのも覗くと、殺人事件の被害者発見したこともあるし、火事の第一通報者になったことも三度ほどあるし、泥棒捕まえたことも二回あったりしますし、、、。なので、日本は安全かと言われるとかなり疑問なんですよねぇ。
Posted by 樽井 at 2008年09月01日 23:45
樽井さん。
なんと事件の多い人であること。しかし、それも仕事柄の差でしょうか。あちこち出歩く人と、家の中でパソコン相手に仕事をしている人と。それから夜と昼と。
決して大阪だからということはないと思います。つまり樽井さんは多くても、普通の大阪の人はそんなに多くはないと思います(^_^)。
わたしなど恵まれているんでしょうか。普通だと思っていますが。
最近の話ですが、知り合いの近所で軒並み空き巣狙いに入られた。理由は、みんな鍵をかけず留守にしたから。それも隣近所に入られて、噂としては危なくなったのを知っているのに、です。
それを聞いた若い中国人か、びっくりしてあきれていました。日本人の不用心さが信じられないようでした。
東京のすぐ隣に、まだそんなところがあるんですよ。
Posted by 謫仙 at 2008年09月03日 07:35
まぁ、自分の場合は確率的にあいすぎですよね、確かに。
 まだまだ若いつもりなので、このあとまた年老いてから振り込め詐欺にあわないように気をつけたいと思います。
Posted by 樽井 at 2008年09月05日 13:06
これからは外ではなく、内つまり心の犯罪が問題ですよね。おかしな電話があったとき、後で「もしかしたら振り込め詐欺」の最初の接触か、と思ったことが一度あります。
わたしも気を付けないと。
Posted by 謫仙 at 2008年09月06日 08:33
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