2008.10.15 記
十二国記の何作目に当たるのだろうか。四百二十頁あるので少し厚いが一冊で完結。
大陸の北西の国「恭」では王が斃れてから二十七年が経っていた。この世界の律では、王がいない国は治安が乱れ、災厄が続き、妖魔が徘徊する。そして年ごとに酷くなってくる。首都も例外ではない。首都の豪商を父に持つ十二歳の女の子珠晶は、常に護衛が従い、鉄格子で妖魔が入れないようにしてある家に住む。王が立てば解決するものをと思い、言うが相手にされない。
ある日家出をした。黄海(と呼ばれる島)にある蓬山に行き、麒麟に天意を訊くため。
この世界の律では麒麟が王を決める。そのため王になろうとするものは、苦難の旅をして昇山する。
黄海に渡るまでも大変な旅だが、そこから先、蓬山に至る一ヶ月半の旅は地獄を行くような苦難の旅だった。大勢の人が旅立った。珠晶は幸い優れた案内人であり護衛である人を雇うことができた。しかし、案内人を雇わない人もいる。
妖魔に襲われ次々と死者が出る。珠晶はそれを悼むが、当の案内人は、「今回の旅は犠牲者が少ない。だから王になる人物がこの中にいるのではないか」と思っていた。そして珠晶の可能性が大きいと。
珠晶は多くの危機を忍耐力と機知で乗り越える。案内人に教わったことの意味を悟り、置き去りにされた人たちを助けに行き、大人の集団を見事に指揮して切り抜けたりする。
蓬山に近づくと、麒麟が迎えに来た。そして珠晶が王だと判る。
「−だったら、あたしが生まれたときに、どうして来ないの、この大馬鹿者っ」
恭国に供王が即位した。
この話、矛盾がない。このようなプロットを決めると、当然このようなストーリーになる。もちろん別なストーリーでもよいが、このストーリーは自然で無理がない。災難の数々。案内人の非情な決断。珠晶の心情。人々の狡さと無力さ。
珠晶は自分を強運の持ち主と自覚しているが、案内人の教えの答えばかりでなくその意味を悟り、機転を利かして危機を回避し、努力を惜しまず運に頼らない。それが運を招く。
乗る動物は馬ばかりでなく、騎獣がいる。?虞(すうぐ)・駮(はく)・孟極(もうきょく)など、動物名で固有名詞ではない。このネーミングがいいではないか。読むのは大変だけど。
苦しみながら成長していきます。
珠晶もこまっしゃくれてて、小憎らしくて、表面的には
とてもわがままなお嬢様ですが、実は、他人のことを思いやる
厳しくて優しい心根を持っている魅力的な人物です。
景王も、そうですね。最初は弱々しくて、元の世界に戻ることばかり
考えていましたが、苦しんで苦しんで自分を見つめなおすことで、
王たる資格を得たように思います。
駄目な自分を自覚するところまでは、私もできるのですが、
その後の成長が物語のようにウマくはいきません(笑)
虐められる民衆を、水戸黄門が出ていって助けても、そこに住んでいる民衆の自発性がないと、水戸黄門が去るとまた虐められることになるでしょう。
それを水戸黄門に頼らず、自分たちで解決する話と言い換えてもいいと思います。
そうは言ってもスーパーヒーローの話も好きなんですが(^。^))。
この物語、いろいろなタイプの人物が出てきますね。
この「図南の翼」は十二国記シリーズの中でもけっこう好きな作品です。
なんていうか、すごく前向きな気分にさせてくれたし、弱いところがある人間が頑張ってなんとかできることをしていこうと頑張る姿に気持ちを強く揺るがされました。
また再読したいシリーズですね。
優しさゆえの失敗もありますが、優しさゆえであるので、共感をもって許せます。
この人物設定や状況が、巧みではあるのに自然に配置され、自分の世界が広がるような気がします。
読んでよかった。そんな物語。
作者は、かなり謙遜していますが、これで充分練れていますね。