2008年11月06日

三国志

   北方謙三   角川春樹事務所   1998
 前半は、曹操の戦い方が張りつめていて、気が抜けない。終盤は諸葛孔明と司馬仲達の一騎打ちの状態になる。
 張飛の扱い方がうまい。あの乱暴者がこの本では分別を持った優れた将軍として書かれている。同様に呂布もかなり魅力的だ。

 諸葛孔明が泣いて馬謖を斬ったあたりで、凡人の悲しさを思った。
 馬謖はそれまで小さな戦で連戦連勝の負け知らずであった。それが街亭では三万の軍で二十万の軍を迎え、思考が麻痺して凡人になってしまう。軍師の命令の意味を推測して間違った判断をする。愚直に命令を守るのが軍人なのだが、それができず失敗する。
 しかし、考えてみると、愚直に命令を守って失敗すれば、判断力のないヤツといわれ、これも問題なのだ。そして、凡人はうまくいかないときは、つねに責任を押しつけられる。結果論で判断され、その理由が、命令を守らないときは「命令を守らなかった」。命令を愚直に守れば「命令の意味を判断できなかった」、ということになり死んでいく。
 もし目的を伝えてあれば、馬謖はうまくやれたのではないかと思う。
 凡人は役に立ちたいと思いながらも、それができないことを辛く思うものだ。

「秘本三国志」によれば、すでに魏の天下となり、そこでは最大の実力者は司馬一族。
 曹氏の最大の敵は、司馬仲達であって、蜀や呉ではない。だから仲達は身を守るため八百長で勝てないふりをする。だから仲達としては、簡単に勝ちたくなかったはずだ。

 この小説に限らず、北方小説は面白いことは面白いのだが、どこか夢中になれず、冷めてしまうことがある。それは精神構造が時代にそぐわないからだ。人間の心は変わらないだろうと言う人もいるが、わたしは時代によって大きく変わると思う。
 ゴリラに針仕事はできない。脳の問題ではなくて、手の筋肉の問題なのだ。それにつれて精神構造も違っているはず。
 北方小説は、一部の人が現代からタイムスリップして、そこで活躍しているようなところがある。同じように考えても、当時の人と現代人では内容が違うだろう。文字を知っている人(本人は知らなくても周りの人が知っていれば、知っていることと同じ)の考え方と文字を知らない人の考え方では、決定的に違ってくると思う。そう言う根本的な精神構造にどこか違和感がある。

   …………………………
 田中芳樹「中国武将列伝」に次のような記述があったので紹介します。

 諸葛孔明という人は、そもそも劉備の本営で作戦指導にあたったということは一度もありません。だいたい劉備軍団とでもいうべき組織ができあがったのは赤壁の戦い以後なんですけれども、それ以来、劉備の本営で作戦指導にあたったのは「ほう統」です。西暦208年からですね。その「ほう統」が214年に戦死すると、それ以後214年から220年までは法正が本営で作戦指導にあたります。で、この二人が死んでから、劉備はぱたっと勝てなくなるんです。
 この二人がいた間は勝っていたんです。このほう統と法正に関しては正史の「三国志」のほうにも謀将とか某臣とかいう表現が使われていますが、孔明のときはそれは一回も使われていません。
 つまり「三国志演義」の諸葛孔明は史実に遠いし、そもそも軍師でさえないということです。
posted by たくせん(謫仙) at 21:28| Comment(2) | TrackBack(1) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の長男は大学で、中国史を専攻しました。
高校時代ゲームの三国志にはまって、三国志演義をよみ、
正史を読んでいました。
演義は読みましたが面白いですね。
しかし、正史はなんとも難しくて、一寸読んでやめました。
多分、魏史、呉史、蜀史と較べると面白いのでしょうね。
三国志演義はあくまで、小説ですね。
一番、弱かった蜀が主題というのが、いいですね。
そして、ヒーローが必要・・・
そうした中で、孔明も生れたのでしょうね。
弁慶や猿飛佐助のように、というのはいいすぎですね。
Posted by オコジョ at 2008年11月09日 07:56
おこじょさん。
三国志、書いたのは蜀にゆかりの人。蜀びいきです。あとの演義もその影響でしょうか。蜀びいきですね。
孔明は内政に優れていたので、庶民に好かれた。それで軍師説も生まれたのでしょう。
一つの時代の代表者ですね。
今下関から。
Posted by たくせん at 2008年11月12日 19:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/109192636
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

【角川春樹】についてブログの検索結果をまとめると…
Excerpt: 角川春樹 についてブログの検索結果をまとめると…
Weblog: 最新キーワードチェック!
Tracked: 2008-11-10 23:24