2008年12月17日

風の万里 黎明の空

十二国記シリーズ
 この本は上下二冊。華胥の幽夢と併せて三冊を、旅行中に一気に読んでしまった。とにかく読まずにいられない。読み終えて、旅の途中で読む本がなくなり、本屋に駆け込んだ。

        kazenobanri.jpg
 このシリーズ、表紙の絵から、子供向けと軽く考えると手強さに驚くであろう。全体の整合性といい、難しい漢字の多用とその的確な使い方といい、複雑なストーリーといい、各国の多様性といい、かなり手強く、その気になって読まなければ読めない。
 わたしの好きなSFである。しかし、どこにもSFの文字はない。SF扱いされていないのであろうか。他で紹介している武侠小説もSFだが、そちらは整合性のないのが大きな欠点。それはともかく、それも誰もSFとは言わない。もう「SF」は死語なのかな。小説はすべてSFといえなくもないので、いちいちSFと断らないとか。
   …………………………

 陽子は慶国の王になったものの、前王の時代の官僚によって、政治への参加を阻まれる。実際、判断を求められても、この国の様子を全く知らないので、判断しようがない。結局高官に任せることになる。評判は芳しくない。特に麦州侯を罷免したのは失政であった。
 そんなある日、麒麟に後を任せて、国を学ぶために王宮を留守にしてしまう。
 そこで陽子は、芳国の元公主(姫)で両親を殺され国を逃げ出した祥瓊と才国で苦しんでいた鈴に出会う。
 慶国の暗部ともいえる和州は、和州侯に人をえず、多くの庶民が重税や圧政に苦しんでいた。それが許されたのは国の高官と癒着していたからである。陽子はそのことを知る。
 和州で反旗を翻し成功すると、それに乗じて国政にも乗り込み、一気に悪徳高官を退けてしまう。そして、罷免してあった前の麦州侯を国政のトップに据えて、綱紀粛正を命じる。
 祥瓊は、父が暴君であり国が荒んでいて、簒奪者に殺されるほどの王であったことを理解し、そのことを知らなかった自分を恥じる。
 鈴は弟のような友の病を治すため、陽子にすがろうとしていたのであるが、友は殺され、その仇を討とうとしていた。そして知らずに陽子に協力し、仇を討つことができた。
 王宮に戻った陽子は、政治を改革し、行き場のない祥瓊と鈴にも協力を求める。

 この巻は陽子の正念場である。政治改革を実行でき、ようやく国の体制ができた。それまではいつ倒れるか判ったものではない状態だった。この世界は意外に国(王朝)の寿命は短い。慶国も短命の女王の時代が続いたので、新しい王である陽子に失望する人が多かったのだ。
 最後の言葉の要約だが、
 わたしは、叩頭されることが好きではない。礼典などの儀式のとき以外は伏礼を廃す。他者の前で毅然と首を上げよ。災難に挫けず、不正があれば正すことを恐れず。慶の民はそんな不羈の民になって欲しい。すべての人は己の王となれ。
 和州の民が奴隷化し、己を失い無力となって、どんな理不尽なことにも、頭を下げることによって処置しようとするのを、知ったゆえの言葉である。
posted by たくせん(謫仙) at 09:18| Comment(6) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
十二国記、どの巻も読み始めると、最後まで一気に
読んでしまうのですが、これは、特に好きな物語です。
陽子の最後の言葉、勅命は、
色々な苦難を乗り越えた彼女のことばだからこそ、
重みがあります。
まだまだ人間捨てたものじゃない、
頑張れるぞ、と元気を与えてくれる気がします。
慶国はきっとこれから良くなる。
時間はうんとかかるかも知れないけれど、
まだまだ辛いことはたくさんあるだろうけれど、
頑張れ、陽子、私も頑張るよ、と思いたくなるラストです。
Posted by ちーねー at 2008年12月28日 19:41
ちーねーさん。
初勅は、慶国の官吏と国民に向けて発したものですが、現在の社会に向かって発しているようですね。
>災難に挫けず、不正があれば正すことを恐れず。
不正を正すと国賊扱いされることの多い社会に、勇気を持てと。
突然の経済不況で、呆然としている人も多いような年末。勇気を持つ前に、生きることを考えなければならないのが、現実ですけど、矜持を持って生きたいと思います。
陽子は貧しい国民に希望を与えていますね。
Posted by 謫仙 at 2008年12月29日 08:12
謫仙さんは12国記を読んでいるところですね。アニメも見ているのでしょうか。

3人娘成長の物語でもありますね。アニメでもかなり重みのある部分です。特に祥瓊は、自分が何の悪い事もしていなかったのになぜそんなに酷い目に合わされたかと不平不満ばかり持っていて、楽俊に諭されやっと分かるようになりました。それで、大きな成長に繋がりました。陽子の勅命も素晴らしいものですが、祥瓊の場合は自分の世界観を変えたほどの大きな成長でとても貴重なものではないかと思います。

祥瓊の変化を果たせたのは楽俊の功労が大きいです。一見して非常に素朴で当たり前のような理屈ですが、普段なかなか考えつかないのです。言われて初めて「あ、そうだね」と感心するしかありません。「責任を果たさず、手に入れるものはない」とか、観客としての自分も大変感銘を受けました。

楽俊はまさに良師益友ですね。あんなネズミがほしいです・・・

世界経済冷え込みの中で、お互いに励ましてがんばっていきましょう。
Posted by zhtfan at 2009年01月10日 04:00
zhtfan さん。
アニメは二つの話の途中の二巻を見ていませんが、一応見終わりました。
このアニメ、陽子と一緒に来た二人以外は、原作に沿っていますので、見ていてしっくりします。

楽俊は、初め陽子が疑っていても、それを気にせず、陽子を助ける。それからしても大物ですね。
祥瓊を助けるときも、何気ない普通の生活態度で、祥瓊を悟らせる。実に良き友です。

ところで、アニメは名前や地名がピンと来ないので困りました。
ラクシュン・ショウケイ・セッキ、こんな名前や地名が続くと、どれが誰だか(^_^)。
音読みの名前は頭に残りにくいンです。漢字を見てはじめて、あそうか。未曾有の物語ですからね。
Posted by 謫仙 at 2009年01月10日 08:31
謫仙さん、こんばんは

 「途中の二巻」と言うのは「転章」のことでしょうか。ちょうど今日はYahooで12国記の無料視聴を発見しました。
 
 http://streaming.yahoo.co.jp/p/t/00173/v05925/

 なんか2008年12月22日から配信開始でしたよ。悔しい!早く気づけばよかったのに。謫仙さんはビデオレンタルをしたのですよね。

>このアニメ、陽子と一緒に来た二人以外は
 ここの改編は小野先生が猛烈反対していたそうです。12国記残りの部分がアニメ化されなかったのもそれが大きな原因だと聞いています。
 なぜならば、12国記というような文学はすごく背景設定に拘っているからです。破綻のない設定は命だと言っても過言ではありません。
 簡単に蝕を起こして人間を二つの世界間に行き来させられるなら、陽子は「慶で王をやるか日本に戻るか」の選択に迫られた時にあんなに動揺しないはずです。後の「黄昏の岸、暁の天」で如何に神性を失った泰麒をこちらの世界に連れてくるか、皆が脳みそを絞るという物語もおかしく見えるようになります。
 その改編のせいで、小説全体の整合性はばったりと崩れてしまったので、小野先生が怒ったのも無理はありませんね。
 但し、アニメの制作は素晴しいものこの上ないのです。残りの部分を見られなくて残念でなりません。

>ところで、アニメは名前や地名がピンと来ないので困りました。
 字幕はなくて困るでしょうね。中国ではここ数年で殆どのドラマに字幕をつけるようになっています。耳の不自由な方のためではなく、常用ではない言葉を聞くだけで分からないという意見が多かったからです。日本では教育レベルが高いのでそれほど必要はないでしょうが、12国記みたいな漢字を多用した作品は字幕を付けると受けられやすくなるでしょう。

 ちなみに、謫仙さんは「SF」と仰いましたが、12国記はファンタジーなのではと思いますが。中国では「奇幻小説」と言い、12国記のほかに日本の銀河英雄伝説とスレイヤーズ、欧米のハリボテと指輪物語がその部類に入っています。
Posted by zhtfan at 2009年01月11日 02:14
zhtfanさん。

 「転章」らしい。何章というのが2巻文ほど飛んでいました。
それらしいものを見てみましょう。
>簡単に蝕を起こして人間を二つの世界間を行き来させられるなら、陽子は「慶で王をやるか日本に戻るか」の選択に迫られた時にあんなに動揺しないはずです。

これはどうするのか、見ていて気になりました。蝕を起こして帰させるのには、エッと思いましたもの。

 日本の場合、共通語はどこでも通じますから、普通は字幕は要りませんね。でもこの漢字多用の話では欲しくなります。「漢語」は「やまとことば」とは異なり、文字に意味がある。大和言葉は音に意味がある。その差ですね。

 SFというのは、定義がありませんが、イフワールドというのが一番近いでしょう。昨日は雨でしたけれど「もし晴れていたら」、そう考えると「すべての小説はSFだ」と言う人もいます。わたしはそこまでは思いませんが、金庸小説もSFと考えています。前は「空想科学小説」なんていわれましたが、もう死語です。
 もちろんその中にもいろいろあって、ファンタジーはSFの一分野です。中国とは分け方が違うかも知れませんね。
Posted by 謫仙 at 2009年01月11日 10:11
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