2009年01月09日

中国魅録

中国魅録
「鬼が来た!」撮影日記
   香川照之   02.4   キネマ旬報社

 1998年に「鬼が来た!」(鬼子来了)という映画が撮影された。2000年のカンヌ映画祭でクランプリに輝いた作品である。
 わたしは見ていない。知らなかった。この本は、それに登場する日本兵の役を演じた香川照之さんの撮影日記だ。本には書いてないが、第二次世界大戦末期の中国が舞台だという。
 カンヌでは2時間42分。ハリウッドの記者の、「もっと短くできるのでは」という問いに、監督兼主役の姜文(チアン・ウェン)は、
「中国に帰ったら『あ、ここダメ、ここもダメ、ハイここもカット』という具合にどんどん短くされて、たぶん3分間ぐらいのショートフィルムになってしまうだろうから、せめて今日のこの日くらいは、一番長い状態で、見させてくれ」と言って場内を笑わせていた。
という。
 その通りで、改編要求に応じなかったため、中国では放映禁止になってしまった。
        chiugokumiroku.jpg

 その撮影現場だが、すさまじいの一語に尽きる。ディープ・チャイナの衝撃。
 アクセルはいっぱいに踏みっぱなし、警笛は鳴らしっぱなしの、泥酔したバスの運転手。
 衣装係に衣装を渡すと、半分は消えてしまう。そのため「衣装係りに衣装を渡してはいけない」と言われる。
 撮影用に野菜などを用意すると、用具係が、まだ使わないうちに見に来た人に売り払ってしまう。
 殴るシーンでは本気で殴れと言われて、何度も(撮り直し)殴ったら、相手は肋骨が折れて入院した。香川照之本人も本気で殴られて、口の中が切れて、食事ができない。
 泊まっているホテル(?)のシャオチェ(小姐、服務員)が大事なものを持って行ってしまうので、部屋に置いておいてはいけない。電気もない、熱いお湯と冷水が交互に間欠的に出てくる、ノズルのないシャワー。逆流するトイレ。
 袋の中に閉じこめられるシーンがあり、袋に入ったら、まだ撮影が始まらず、一日中(?)そのままで放っておかれた。
 酒を飲む宴会のシーンがあるが、中国人はみな撮影であることを忘れて、始める前にできあがってしまう。
 本番中でも平気で私語を続け、何度もやり直す。
 零下20度の世界なのでフィルムが凍りついてしまった。

 こんな話がいたる所にあるのだ。そもそも台本さえなく、監督の一存で、その日のシーンが決まるが、すぐに別なバージョンを思いつき、繰り返していて進まない。エキストラが指示に従わないため、1シーンで一日かかったり、その日にならないと何をするか判らない。
 まさに地獄の撮影現場で、中国のすさまじさを思い知らされる。
 いったいこれは本当であろうかと疑いたくなるほど。張紀中も俳優を酷使するが、それとは桁が違う酷使ぶり。
 本当であるのだが、最後にとんでもないオチがあって(これは書けない)、唖然としてしてしまう。こんなことが許されるのか。繰り返すが、1998年である。30年前なら、あったかも知れないと思うが、10年前の話だ。
 この迫力が、見る者を感動させたらしい。監督はフランス人の奥さんがいて、フランス語を話すインテリ。その人が、このすさまじい現場に耐えていたのだ。これも凄いことではないか。中国のインテリだぞ。

 ご存知のように、中国で鬼と言えば日本人を指す(場合が多い)。だがこの映画を見た人の話では、日本人に限らず、中国人にもある鬼の部分を撮したようだと言う。
 放映禁止はそのせいらしい。
posted by たくせん(謫仙) at 08:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この本、面白そうですね〜。
 中国ってほんとうにまだまだ凄いとこですね。
Posted by 樽井 at 2009年01月09日 23:09
今でも先進国と中進国と後進国が混じり合っているような国で、先進国の映画隊が後進国で撮影を始めたようなものでしょうか。
映画ではそんな環境が必要だったのでしょう。
Posted by 謫仙 at 2009年01月10日 08:12
あっ!もう読まれたのですね!
私は他に読む本が山積みで、
図書館から借りてもおりません(^^;
でも内容をお伺いするだけでも面白そう(不謹慎ですが)ですね!
Posted by 阿吉 at 2009年01月10日 21:31
阿吉さんに紹介された本ですが、わたしの方が先に読み終えた?
とにかく時代が逆戻りしたような気がします。
この撮影現場に耐えた著者の忍耐力も凄いもの。
唖然としましたよ。
こちらではインターネットで図書館予約ができます。それを利用して、図書館員に用意させます(^_^)。
Posted by 謫仙 at 2009年01月11日 08:36
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