題の行とは曲の意味であり、訳せば侠客の歌とでもいおうか。李白の詩である。
名前も不明な狗雑種と称する浮浪少年の、成長物語である。
何でも希望を叶えてくれる「玄鉄令」の争奪戦から物語が始まるが、実際にはそんな能力はないことが判る。有能な剣客がその債務者だが、剣以外はたいしたことはできない。竜頭蛇尾の見本。
狗雑種が偶然その「玄鉄令」を手に入れるが、その使い方を知らない。それによって、数奇な運命をたどることになる。
特に石破天という人物と間違われるが、それさえ貝海石という人物の工作であった。そして、その石破天がいつまでも狗雑種にとって謎の人物。
十年ごとに来る侠客島よりの招待。間もなく4回目の招待が近い。招待されるのは武林各派の総帥。そして侠客島に渡った者は帰ってこない。
招待に応じない時は、今までの罪を暴かれ、一派皆殺しにされてしまう。裏街道に生きる者に、すねに疵の無いものはいない。
招待の使者は、張三李四の二人。この名前は名無しの権兵衛に等しい。それはともかく、いくら有能とはいえ、たったふたりでは、江湖の人間の疵を残らず暴くことは無理だろう。
この使者の能力が最大のミステリーと思っていたが、この謎は解明されずに、いつの間にかその話が消えてしまう。設定はすごいのだが、その理屈付けに失敗している。玄鉄令は錯覚としても、こちらはそれでは済まないだろう。これは竜頭蛇尾というより竜頭無尾。
金庸小説としては最悪。解けないミステリー。そうは言ってもおもしろいし、小説のできは良い。
(注:この見解に対して、そうではない、という指摘があります。コメントを読んでください。わたしも再読して確認したら訂正します)
本来なら総帥の地位にある貝海石が、招待を避けるため、石破天を総帥に祭り上げ、身代わりにしようとするが、逃げられてしまった。そのとき狗雑種を見つけ、石破天の身代わりにしようとする。
この侠客島の謎がメインテーマであり、狗雑種はこの謎を無教養であるが故に解く。
設定もおかしいが、人物もおかしいのがいろいろ。おかしな人物の例をあげると、丁不三。
老人であるが、「一日三を過ぎず」と言われている。何かと言えば殺人数!
孫の少女との会話。
「テンタンや、今日は何人殺したかな」
「おじいちゃん、もう二人殺したわよ」
「そうか、ではあと一人しか殺せないな」
ある日、主人公を殺すはずだったのを、テンタンが策を巡らし、朝のうちにごろつきを三人殺させてしまう。
いざ主人公を殺そうとすると、テンタンは「もう三人殺したわよ」と助ける。(^。^))。
中国のあちこちに行くが、各地の侠客たちがけっこう知り合いであったり親戚であったりして、武林は意外に狭い気がする。
追記:金庸小説として最悪といっても、面白さは減っていません。
二つの謎について、細かく検討しました。
参照 たくせんの中国世界−侠客行 賞善罰悪使
たくせんの中国世界−侠客行 玄鉄令
謝煙客が、桃花島・黄薬師の絶技「弾指神通」を使えるという設定からして射G英雄傳でいうところの五絶クラスの扱いであることがわかります。
張三李四は他にもいる侠客島の使者の中の二人というだけであり、「侠客島の使者」という江湖の者たちが恐れるあまり自ら作り出した虚像を実像と思い込んだもので、この二人がすべてなしたのでは当然ありません。
もとは真の実力者である侠客島の両島主が少林寺や武当山を訪れたときのことが尾ひれがついて伝説となったためです。
実際張三李四は狗雑種と張り合ったせいで格下に殺されかけるなどの底の浅さを見せています。これは張三李四の強さというより、両島主の実力を間接的に見せるものさしではないかと思います。
私は金庸作品のなかでもよく練りこまれた後期の良作と思います。
張三李四の能力、このふたり以外の使者がいるのなら一部納得できますが、本を読んでいるときは、そこまで考えが及びませんでした。現実に殲滅された幇があって、そして暴かれた古傷が、あとで調べて判るような内容ではない、知っている人しか判らないようなもので、虚像を実像と思い込んだものとはとても思えませんでした。次回この本を読むときは、そのようなことを読み落とさないように、気を付けて読んでみます。
一部追記しておきます。