2009年03月21日

管仲

  宮城谷昌光   角川書店   03.4
 春秋時代の覇者、斉の桓公に仕えた名宰相、管仲の登場である。管仲といえば思うのは、

  倉廩実つれば礼節を知り、衣食足れば栄辱を知る
「管子」牧民編

という言葉である。まず民が豊かになってこそ、国が栄えるというのは、現代では常識であるが、紀元前7世紀にこう説いたのは卓見である。
 もっとも民といっても農をする人家畜(農奴)に近い。だからこそ、牧民という言葉があり、荒野に民を移すことを「民を植える」、つまり植民という。その土地は植民地だ。民という字も、「漢字の起源」によれば、逃げないように目をつぶされた奴隷の意味だという。
 丁度このころから鉄の使用が始まり、生産力が急に向上した。これを的確に認識した政治家が管仲であった。
 また、「管鮑の交わり」という言葉もある。
 管仲と鮑叔は、敵対しても、相手を引き立てることを忘れなかった。特に鮑叔の人物に品格がある。
 かなり読みやすくなったと言える。
 いままでの宮城谷小説は、一声かけてはその意味を問い、一歩歩いては理屈をならべ、一事がなると人生訓を述べる、という具合であった。それが、少なくなったように思う。
        kanchuu.jpg

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 管仲の若いころのことは判っていない。
 上巻はほとんど作者の創作になる。いくらかは伝わっていることがある。たとえば管仲と鮑叔のふたりで商売をしたことがある。利益のほとんどは管仲が取ってしまった。だが鮑叔は一切苦情を言わなかった、とか。
 そのように知られた事実を巧みに取り入れ、ふたりの若者が成長して、斉君に取り立てられていく様子が、まるで史実のように語られていく。
 もちろん青史(書物によって伝えられている歴史)も忘れない。このふたりは歴史の中心となった人物でもあるのだ。
 当時すでに周は名前だけになり、統率力を失っていた。そして周の東は、鄭が最強国であり、衛も弱小とは言えない。そして魯や宋もそれなりの強国であった。斉もそれらに伍している。後に戦国の世になると、鄭・衛・魯・宋などは弱小国になるが、初めから弱小国であったわけではないのだ。
 当時の国家は基本的に点である。わずかの強国が面であった。
 この物語では、魯公の不誠実さが目立つが、国の品格はその領主によって決まる氏族国家の時代である。

 下巻は管仲が歴史に登場してからの話が中心で、かなりの部分が青史を反映している。
 この中で鮑叔の思いきりの良さが際だつ。つねに管仲を引き立て援助したが、決断の早さは管仲を上回る。斉の僖公(きこう)が亡くなると、公子諸兒(しょげい)がたった。襄公である。この襄公の倫理が危ういと見ると、補佐している公子小白と共に突然消えてしまう。管仲にも相談しなかったのは、管仲に累を及ぼさないため。
 管仲は公子糾(きゅう)を補佐していた。襄公に万一の時、つぎの斉公は誰がなるのか。評価の低い襄公に黙って仕えている公子糾より、決別した公子小白の方が評価が高い。この争いでは、管仲は鮑叔に後れを取ったといえる。襄公の在位は十二年であった。
 公孫無知が反乱を起こし、次の斉公となった。その乱で管仲は公子糾とともに亡命する。
 ところが公孫無知は二三ヶ月で横死する。その後はきょ.gif「きょ」に亡命していた公子小白と魯に亡命していた公子糾のどちらが先に斉に帰り着くかという競争になる。結局は公子小白が勝ち桓公となる。
 この桓公は鮑叔の勧めに従い、敵である管仲を宰相に迎えて、春秋の覇者となる。
 管仲は老いて衰えることもなく、死ぬまで桓公に仕えたが、管仲が死ぬと桓公は醜態をさらすことになる。
posted by たくせん(謫仙) at 07:42| Comment(2) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
蘊蓄と歴史的なあれこれを語るのが減ってしまうのは、あの初期から中期までの独特の文体や構成が好きだった身には微妙なところです。小説として上手いだけだと面白くないような気もしちゃうのです。ただ、、、そうはいっても三国志なんかは色々と歴史コネタをいれすぎて明らかにテンポが悪いし、、、最近の宮城谷さんはちょっと微妙です。
Posted by 樽井 at 2009年03月22日 00:01
三国志はあまりに話にまとまりがなく三巻で挫折しました。毎頁のように新しい人が出てきて、その紹介をするといつまで経っても話が進まない感じでしたね。実際には少しづつ進んでいるんですけど。
で、第三巻で投げ出してしまいました。小説風歴史書の感じです。
初期の宮城谷小説は好きでしたね。当時はHPに本を紹介するだけで感想文など入れませんでした。
この管仲は初期から見ると少し軽くなったかな。でも小説の面白さは保たれていると思います。
Posted by 謫仙 at 2009年03月22日 12:20
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