杉浦日向子の作品集である。
もちろん時代は江戸時代。江戸時代はある意味、不条理な時代でもあった。そのため物語は起承転結と順調にはいかない。転のないまま結になったりする。問題はそのまま、解決せずに終わる。それが江戸時代ではなかろうか。
その不条理は、富の偏在、特に貧しさから来ている。その貧しさの中で、精一杯生きている江戸人の姿だ。
いくつかの話の中の、太鼓持ちの話で、太鼓持ちの台詞が地口の続出で面白いので紹介。
びっくり下谷の広徳寺
堪忍信濃の善光寺
ひどい目に袷帷子単衣物(あわせかたびらひとえもの)
恐れ入山感服茶釜
嘘を築地の御門跡
その手は桑名の焼蛤 (これは今でも通じる)
呆れ蛙の頬冠り
いらぬお世話の焼豆腐
こちらは若旦那。
お腹が北山時雨(腹が減ってきた、という意味)
物語は、若旦那が三千両の持参金つきの娘を娶るため、言い交わした女郎と手を切るので、その話を太鼓持ちに頼む。太鼓持ちは怒って断るものの、そこで物語は終わる。結局どうなったのか。
その他の話もそれなりに不条理。
こんな物語をこんな絵を、二十代前半の女性が描いていたとは、恐れ入山感服茶釜だ。