北宋の哲宗の時代、大理の王子段誉(和誉)が家出をして、江湖の世界を知るところから物語が始まる。
例の如く、偶然で武芸を覚えて、運痴がスーパーマンに変身する。
仏教国の皇帝が、江湖の絶技を身につけているのは、多少無理があると思うが、読んでいるときは、それを感じさせない。
雲南省は現在でも少数民族が多い。宋の時代は大理国として、独立していた。
段誉は大理国の保定帝の弟鎮南王の一人息子である。しかも皇帝には子がいない。つまり、次の皇帝となるべき立場の人物である。それが武術が全くできず、親に武術を習うよう強制されて、それがいやで家出をする。
それでいながら、武芸の問題に首をつっこむ厄介者である。
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第一巻 剣仙伝説
ようやく武術の修練を始めた段誉、手足の動きは形だけという感じ。
主人公クラスは、段誉−簫峯−虚竹(こちく)−慕容復と四人いる。段誉と簫峯が中心であろうか。この段誉の成長物語でもあるのだが、丐幇の幇主である簫峯の出生の謎も大きな要素である。少林寺僧虚竹の存在も大きい。慕容復は後で出てくるせいもあるが、サブキャラの印象。
題名でも判るように、仏教国の大理の王子や少林寺の僧侶の虚竹やチベット僧の鳩摩智など、仏教色が濃い物語だ。当時の複雑な国際情勢、宋(北宋)・大理・遼(契丹)・西夏・吐蕃(チベット)・女真などの勢力の消長が、物語を複雑にしている。そしていつもの如く、大勢の美少女(^。^)。
わたしは半分歴史小説として読んでいる。この本ばかりではない。金庸の武侠は歴史小説でもある。ただ物語のために変更を加えているため、そのまま丸飲みしてはいけない。たとえは大理の歴史はこんなに順調ではない。
段誉は新作落語にもあった意外な落ちで、美少女王語嫣を娶り大理の皇帝を継ぐ。父の鎮南王は愛憎劇の果てに亡くなる。史実では鎮南王が皇帝になり、その後を段和誉が継ぐ。
金庸小説に登場する老人は枯れない。この天龍八部では、なんと96歳の天山童姥(てんざんどうぼ)と88歳の李秋水が、93歳の無崖子(むがいし)を巡って命を張った争いをしている。
スケールは劣るが、60歳を過ぎた、趙銭孫(ちょうせんそん)と譚公(たんこう)とその妻譚婆(たんば)の若いときの精神的三角関係も継続している。
最後にバタバタと死ぬ人が出て、ちょっと辛いが、奇想天外なプロットとストーリーは相変わらずである。
特に偶然を必然にするために、かなり複雑な設定をしている。
雲南旅行後、再読してみると、地理がある程度判るので、意味がよく判った。そしてあちこちに伏線が張ってあるのに気がつく。
著者は長期連載の途中で長期出張することになり、代筆を立てている。帰国後そのつじつま合わせに苦労している。本になったときは、本来の形に戻している。
こんなことができるのも香港らしいではないか。
参考
ドラマ天龍八部の珍瓏
天龍八部の碁
たくせんの中国世界−天龍八部
たくせんの中国世界−雲南憧憬
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さて、この本の紹介をブログに移すことができて、ホームページの書庫の小説は移し終わることになる。ホームページでは文字通り本の紹介ばかり。ブログに載せるときは、要領が判ってきて、感想を載せたり、内容の紹介もしたりしている。
それでも武侠ならば、あらすじなど細かいことは「たくせんの中国世界」に書くようにしている。書庫はあくまで本の紹介が中心だ。この本ももっと詳しいことを「たくせんの中国世界」に書いてみたい。