表題作を含む短編集だが、ロマンチックな話を集めている。
あくまでもSF、それも昭和のSFである。たとえば宇宙人が出てくるとか、変身とか、いかにもSFっぽい話ばかり。

表題作の天虫花など、その星では夏は数年あり、って一年はどうして決まるんだという疑問はさておいて、ある夏の乾期には、雨期のときに生まれた微小な虫が、風船のように空に飛び、集まって珊瑚のような群体の花となり、雲を形成するのだ。その雲さえ花の形。天気予報は、この雲の様子を予測する。
ここまでは序。それから物語が始まるのだが、それは本を読んで頂くとして(本を手にすることは難しいが)、こんなロマンチックな話ばかり。
水中花では、五色沼の水中花となる美人との、はかなくも美しい恋。
ミステリーもある。
死んだ人から電話がある。思いこみと誤解で話が進み、最後にはもちろん謎は解けるのだが、世間的には解決したとは言いにくい。
その誤解を生み出すのは、けなげな女のそのけなげさを理解し、恋していたからこそ。
画家が忙しすぎて、原稿を読む時間がなく、カバーの絵が先に決まり、その絵に合わせて小説を書いたという。
それにしても天虫花のイメージ、これだけでわたしは式貴士を忘れることがない。