
この本は式貴士のデビュー作である。当時45歳だったという。同年齢に森村誠一や半村良や西村京太郎などがいる。
帯には星新一や中島梓の賛辞がある。「長ァ〜いあとがき」は、23頁。
著者は小説を書くときの心得に三箇条上げている。
1 読み易いこと
2 面白いこと
3 奇想天外なこと
リライターの経験から、要らない文を削る習慣ができている。
だからSFを読んでいても「ああ、これはいらない」「これは無駄」「これは意味ない」という意識が先に立ち、「最近の海外SFはつまらなくなった」という感じを受けてしまうのだ。
ということを書いている。
わたしはこの考え方に同調する。
たとえばわたしの、多情剣客無情剣の感想がそうだ。
社交嫌いというのも似ているか。
人との交わりで生じる誤解、断絶、中傷、外交辞令、エチケットなどがおぞましく、面倒くさく……
これで当時知られていなかったのだ。
表題作のカンタン刑
死刑よりも恐ろしいというカンタン刑。今は死刑でさえ人道的云々がいわれる。それを考えれば確かに死刑より恐ろしい刑が存在する。
題名の意味は中国の故事に詳しい人なら、察することができる。
最後に中国の司法大臣の毛沢光が、カンタン刑を是非輸入したいという。カンタンの意味を説明され、「ほう、中国にそんな話があったのですか。わたしの祖先の毛沢東が革命を起こしてくれたおかげで、昔の書物にお目にかかれなくなってしまい、誠に恥ずかしいことです」
ポロロッカ、日本が眠った日、不思議の国のマドンナ、Uターン病など、9編。全てIFワールド。
グロテスクで、へきえきする部分もあるが、案外一般の読者には受けたらしい。エロもそうだが、わたしは必然性のないエロやグロは御免被る。必然性があるかどうか、これが上に書いた批評の態度だ。
式貴士さん、認識が一致しました^^ このカンタン刑っていうので頭の中でリンクできましたが、このカンタン刑、少し前に新装版が出ていましたよね。すごく今風なホラーと繊細さが融合した表紙になっていて、中身を読んではいないのですが表紙だけで新人の方だと思っていました。
前後の記事を読むとずいぶんと昔の方だったのですね。
一度読んでみたいと思います。
ホラーとは少し違うと思いますが、間違いとは言えない。
本が出てから30年。当時夢中になったなつかしい本です。
SFが文学と認められてからさほど時間がたっていないころ、一部の熱狂的ファン以外には知られていない作家の一人だと思います。
わたしはこうして再読できて、喜んでいます。