津山紘一 徳間書店 1979
ショートショート集と言ってもいいと思うが、正確な定義に当てはまらないようなので、SF短編小説集ということにする。
副題のように最初の本である。
この奇妙なロマンチックさファンタジックさがいい。普通のロマンチックな話とは微妙にずれているのだ。
最後にあとがきともいえる著者のモノローグがある。これも作品の一部のようだが、判りやすい特徴があるので紹介する。
著者は大学卒業後、カメラマンとして就職したが、退職して三年ほど渡欧している。その時の話。
コペンハーゲンの安ホテルで滞在していた時、イタリア人の神父と神父の卵達が十人程泊まっていた。毎朝ホテルの前で、彼らは僧衣を着て賛美歌の練習をしていた。
ある朝、道の向こうをグラマーな金髪女が通りかかった。
すると神父達は賛美歌をやめて、いっせいに口笛を吹きはじめた。中にはイタリア語で何か叫んでいる者もいた。
女は知らん顔をして、大きな尻を振りながらとおりすぎた。
そして女の姿が見えなくなると、神父達はまた静かに賛美歌を歌いはじめた。
喋りすぎず、余韻を残して、軽いユーモアで終わる。全編これに近い書き方だ。「第一創作集」とあるように初期の作品であり、総じて稚拙ではあるのだが、著者の特徴がよく出ている本だと思う。
七八十年代に本を出しているが、数は少ない。その後は書いていないようだ。わたしが読んだのは数冊。なつかしい作家だ。
地球を風呂敷に包んで逃げる大泥棒の話。犯人をライフルで狙撃するのだが、このサイズ差で効き目があるのか(^_^)。
「不老不死の薬」など、誰もが想像するように、地球が滅んでも孤独に生きねばならないことになる。
「死ぬ」では、死刑囚は死刑までなんでものぞみ通り与えられる。女でもご馳走でも。まあ死なないようにそれなりの制限がある。生きる希望がなく、考えつく限りの方法で自殺しようとするが助けられてしまう。その度に二度と自殺の試みができないようになる。歯を失い手を失い足を失い、生きる術を失ったとき、死刑が廃止され、終身刑になり、老衰以外の死は許されなくなる。
こんなファンタジックなユーモア小説の世界だ。