話を戻して、十二月に千寿会に行ったときは、かささぎさんが、最初に声をかけてくれた。かささぎさんが千寿会のホームページの主催者である。
わたしはホームページで千寿会を知ったので、本名は知らなくても、ハンドルネームで判る。わたしも「たくせん」で通している。
この時八人の(女子)大学生がゲストとして来ていた。強い人は学生初段から下は九路盤のレベルの人までいた。
ここで学生初段とことわったのは、学生は一般の初段より3子程度レベルが高いらしいからである。
なお、碁の盛んな大学では、独自に段級制度を持っているので、段や級で棋力を計ることはできない。
1時に始まった対局も四時前後に終えて、4時半から講座であるが、その間のティータイムに、千寿さんは講座の前座として、碁に関連する諸々の話をしてくれる。
この時は、言葉の違いによって碁の思考が変わるという話をした。
日本語と英語は違うというような単純な話ではなくて、言葉の概念の相違である。
碁が判る人には説明するまでもないが、「からい手」「甘い手」「渋い手」などという言い方がある。
これを直訳して英語で話すと意味が変わってしまう。
日本では甘いと言えば貶す言葉であるが、英語では良いという意味に取られるらしい。他の言葉も同様に概念が違う。
ある手に対して、どうしてそう打ったのか訊くと、日本人は「……の感じがした」「形がいい」というように答えるが、西洋人はとうとうと理由を説明するそうである。
そんな話をしてから講座を始めたのであるが、大盤解説をしながら、いきなり、
「オンドラ君ならどこへ打つ?」
と話を振る。
十五歳のチェコの少年は、日本語で答えるのであるが、とっさの会話に答えられる言語力に仰天した。
もっともこれは、言語力が弱いわたしだけの感嘆かもしれない。
院生Cクラスを突破して、いまBクラスでもまれている。チェコの片田舎(碁の世界では)に、このような棋力の少年が生まれたことにも驚くべきである。
この少年を見つけたことを話す千寿さんは、実に楽しそうだった。