局面は覚えていないので、判りやすく似たような例図を作ってみた。図は異なるが趣旨は変わっていないはずだ。盤面は40目程度黒が勝っている。
ここまできてわたしは声をかけた。
謫「終わりですね」
白「まだ終わっていない」
謫「ではパスします」
白はAに打った。意味のない手だ。もしここに手があったとしても「終わりですね」と黒が声をかけて白が同意してしまえば、黒は何か手に気がついても、それ以上は打てないところ。
さらにパスすると白はBと打つ。白の意を察して、黒C・白D・黒E・白Fと打つ。
再び「終わりですね」と声をかけた。
白は無言。
謫「どうします。まだあるのでしたら、わたしはパスします」
白「ルールによって交互に打つことになっている。パスはおかしい」
謫「わたしの方は終わっているので」
「ダメが一つある。まだ終わっていない。交互に打つことがルールによって決まっている。先生を呼んできます」
そういわれて、わたしは下辺にダメがあることに気がついた。ここはどちらが埋めてもいいところ。わたしがパスしたのなら、白が打てばいい。
なんと倉橋正行九段を呼んできて裁定をして貰うことになった。
白「ここで黒がパスしたのはルール違反では」
倉「これは正式な手合いですか」
謫「そうです」
プロの言葉によって、気がつかない手に気がつくことがあるので、倉橋九段はそのことを確認した。
謫「ダメに気がつかないでパスしたのですが」
倉「パスはしてもかまわないですよ。どうしました」
白「まだダメが空いています」
倉「白は手があると思えば続けて打てばいいんです。その前にどちらか『終わりですね』と言わなかったんですか」
謫「わたしが言いましたが、白さんは同意しなかったので、わたしはパスしました」
白「わたしもパスしました」
謫「双方がパスしたら終わりですよ」
倉橋九段も同意して帰ろうとするが、白は納得しない。
謫「倉橋さん。結論をはっきり言って下さい。『ダメがあるのにパスしたのでルール違反で黒負け』というなら、そう裁定してけっこうです」
倉「問題ない。気がついた方がダメを詰めたら、このことは終わりです」
たとえば白がダメを詰めて、黒は終局宣言する。そのあと白はどこかに打ちたかったら打てばいい。終局にするのは白の権利。
今回は双方とも10分程度残っていた。もし時間切れ寸前のときなら、とにかくパスして、時計を叩くことになったか。双方がパスすれば時計を止める。
ルールによって交互に打たねばならないというが、これは打つ方の権利であって義務ではないだろう。
打たねばならないなら、極論を言えば白が打ってダメのなくなった時点で、終局に同意しないとき黒はどこかに打たねばならないのか。もちろんそうなると、黒も再開を言い、白にも一手打たせることになる。そうして延々とこの先130手も続くことになってしまう。
倉橋さんは「こんなトラブルは初めてです。とにかく皆を待たせているので」と帰って行った。
普通は最初の「終わりですね」で同意して対局の停止となり、時計を止める。ダメを詰め死活を確認し、必要なら手入れをし終局となる。そして地を数えることになる。交互にダメを詰めるのはトラブル防止のため。
わたしがパスを宣言したのは、「終わりですね」に相手が同意しなかったから。まだ対局中であり、相手の手番で続くことになる。つまり「終わりですね」はパスを意味する。だから「パス」と言っても意味は同じ。
「終わりですね」に同意しないと、まだ手があることを教えるようなもの。「パス」ならば、相手は続けて打ちやすい。
白さんがプロの終局図(正しくは対局の停止という)を見たことがあれば、ダメの空いたまま終局(正しくは対局の停止)することに納得できるはず。
ルール解釈の問題であって時間狙いでなかったし、盤面は40目ほど差があるので冷静に対処することができた。
わたしも数十年に及ぶ囲碁生活で初めての不思議な経験だった。
参考:日本囲碁規約逐条解説
第九条−1(終局)
一方が着手を放棄し、次いで相手方も放棄した時点で、「対局の停止」となる。
第九条−2
対局の停止後、双方が石の死活及び地を確認し、合意することにより対局は終了する。これを「終局」という。
第九条−3
対局の停止後、一方が対局の再開を要請した場合は、相手方は先着する権利を有し、これに応じなければならない。
しかし、先日、「幽玄の間」の中国サーバーを見ていたら、中国でもダメの空いている時点で終局していた。半目を争っている時でなければ、終局に問題ないと言うことかも知れない。
中国サーバーが日本ルールということはないと思う。
お互いにももう目の増減がなければ
打っても仕方がない・・・
でも、こだわる人がいますね。
余りこだわると楽しくなくなりそうですね。
もっとも、そういう人からは、真剣勝負だといわれそうですがね。
3位、お上手なんですね。
3日間、好きなことをして、良い時間でしたね。
白さんの言うことは、間違っていないにもかかわらず、碁を打つ人には通じないこだわりですね。
ルールブックには、いやブックと言うほどの量ではないのでルール頁と言うべきかも知れませんが、本来あり得ない状況についても、一応書いておくことが必要です。トラブル防止のためのルールが表に出てきてしまった、と言うのがこの問題ではないかと思いはます。
交互に打つ、そんなことはルール以前の問題。黒から先に打つのも同じく。
でも一応はルールに載せておかないとトラブルの基になる。
そのルールに書かれていることが必要になる事態は、通常考えられません。
今回のトラブルはわが生涯でも初めてのことでした。
わたしは今回は四段で参加。充実した三日間でしたよ(^。^))。