2009年11月10日

文の違和感

01.2記

「わたしはうれしいです」
この言葉は間違っているが、さて、正しい言葉はどうか。これはわたしの中学時代からの長い長い宿題であった。35歳を過ぎたころ、陳舜臣氏の文を読んで悟るところがあった。氏はよくですます調の文を書く。「うれしいんです」と、いとも簡単に答えを示してくれた。そう、それに気がつけば、いくらでも答えがあるではないか。
 ところが大野晋の「日本語練習帳」に、このような説明があった。
 ですは名詞に付くとことわった上で、「わたしはうれしかったです」について、
「私などは、どうもこの形は違和感があって使いません。しかし……現代語の必要に応じる、将来広まっていい形なので、社会的に認めていいと思います。」
と言っている。
 つまり、わたしも違和感があるが、間違っていると断定したのは問題だった。本来間違いでも、それが多数派を占めるようになれば間違いではなくなる。
 最近流行りだした、頂く必要がまったくない当然の義務を履行するのに、恩着せがましく「させて頂ます」と、頂いてもいないのに言う無礼な言い方も、もしかすると認められるかもしれない。いつかですます調の文を試みようと思う。
 ホント、ですます調の文は難しいデス。
   
 わたしの文も読みやすいと言う人と読みにくいと言う人がいる。
 読みにくいと言う人には「漢字が多くてしかも読めないが漢字がある」と言われた。
 読みやすいと言った人から、どういうところに気をつけているのかと、訊かれたことがある。わたしは「点の付け方と数字と違和感をなくす」と答えた。違和感は個人的な感覚なので、点の付け方と数字について例を示そう。
 一般的な文
「大阪で四、五人京都、名古屋で五、六人横浜で十三人、全部で二三人。」
 これに対してわたしならこうする。
「大阪で四五人、京都・名古屋で五六人、横浜で十三人、全部で二十三人。」
 たったこれだけで読みやすさがまるで違う。
 ただし二三人を二十三人と読まれないように、ちょっと工夫する必要がある。その前に「四十三」というような数字を入れて、「十」を使うことを示す。

 違和感を感じたら、なくなるまで書き直す。結局違和感を感じるかどうかが問題で、個人の感覚の問題になってしまう。「うれしいです」に違和感を感じるかどうか。
 13人や23人をどう書くか。23人を二三人と書いて13人を十三人と書けば、違和感を感じる。それとも一三人と書くか。わたしは二十三人・十三人と書く。いずれにしても間違いではない。

09年追記:この文は縦書きを前提としている。最近は横書きの文ばかり。
横書きならば、数字など、算用数字の方が見やすい場合が多い。それでも二三人(にさんにん)を「2、3人」と書くのは今でも抵抗がある。
 違和感のことも、最近ではそこまで書き直すことは少ない。そのため誤字を見落とすことも多い。しかも場合によってはわざと崩すこともある。
 しかも「うれしいです」も面白さを感じるようになった。時々この言葉がぴたりとはまる文に出くわして、「うまい」と思うことがある。わたしには書けない離れ業だ。こうして言葉は変化していく。
posted by たくせん(謫仙) at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 言の葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック