田中七段は宇宙流武宮九段の師にあたる方である。
わたしが初めて見たのは学芸大学駅前(後ろ?)の 碁会所であった。わたしがまだ1級くらいだったか。
学芸大学駅近くに友人がいて、その友人を訪ねたとき、二人でそこに碁を打ちに行った。友人はようやく碁を覚えたばかり、わたしに井目であった。その後、友人は碁はやめてしまったが、わたしは碁を打つために学芸大学駅まで足をはこんだ。そこの指導員として何度か田中七段か来ていたのだった。
脇で見ていて、初めてプロの強さというものを実感した。実際にあったかとどうか判らないが、記憶では、わたしなら三手くらい続けて打たなければ生きないような狭いところで、当然のように生きたり、こんなに薄くていいのかと思うような模様を作ったりする。
その田中七段は院生師範をしていた。その指導方法は、次のようであったという。
序盤に趣向を凝らして、考えている院生に、
「何を考えているんだ。早く打て!」
そのため仕方なく打ち進めると、
「なぜ、そこで考えない!」
矛盾しているようだが、意味があった。序盤はいつでも研究できる。だか、こうして同じような状況の相手と打つ機会は少ない。打ち進めるうちに、一局の勝敗を決める場面にぶつかる。その時はとことん考えろ。院生時代は、その一局を決める重大場面を、出来るだけ多く体験する必要がある。序盤で時間をとってしまっては、その機会が少なくなる。だから「早く打て」なのだった。
プロを目指す人とアマのわたしでは、勉強の仕方が違うと思うが、どこか参考になりそう。わたしの場合は、序盤や終盤の細かいところをもっと丁寧に打つ必要があるのだが、それはともかく。
田中七段は、武宮少年の成長の勝負所に当たってとことん考え、木谷門に入門させた。その手は勝着となり、武宮の大成を見ることになったのだ。