2021-2-10改訂
花崎采琰(さいえん) 西田書房 1985(昭和60年)
翻訳のレベルは「新譯 漱玉詞」より高い。何よりも、ほとんど日本人に知られていない、中国の女流詩人を紹介したところに価値がある。
古くは周の詩経から、漢の蔡文姫・王昭君・虞美人・卓文君、唐の武則天・楊貴妃・魚玄機、宋の李清照、近くは秋瑾。全部で180人弱の女詩人を紹介している。
当時わたしは李清照の名や「詞」を知ったばかりだった。しかし、近くの図書館にも資料はなく、調べようがなかった。そんな時この本の広告を見てすぐに注文した。
紹介文は李清照を中心にしていたので、その李清照の名に飛びついたのだ。
B5版452頁、自費出版。
その中に10頁にわたり、李清照とその詞「一翦梅」「酔花陰」「如夢令」を紹介している。その中の一場面。
夫の趙明誠と本の整理をしていたとき、李清照が暗記しているある文を言う。趙明誠が、その文がどの本の何頁の何行目に書かれているかを当てる、というもの。そのようにして、どちらが先にお茶を飲むのか賭けたという。いかにも学者夫婦らしい話がある。
この本に過去の出版として新譯漱玉詞の名があった。そこで新譯漱玉詞を欲しいと、著者の花崎さんに問い合わせをした。
すでに著者の手元にも2冊しかないので…、と丁寧な毛筆の返事を頂いた。それで国会図書館に出かけた。
だから新譯漱玉詞よりこの「中国の女詩人」の方を先に読んだ。
この本は詩人を紹介している文があるが、詞詩は原文と訳文のみ。新譯漱玉詞と同じやり方だ。ただし訳文は全部かな書きである。できる限り和語にして、漢語はカタカナ書き。紹介文の漢字はルビが多く読みやすいと思う。
以下は、本の話。
この本の印刷は東京だが、組版を札幌で行っている。当時、すでに活版はほとんどなく、タイプレスタイプ全盛の時であった。
進んでいる会社は、更にコンピュータ処理に変えており、写植やタイプはまもなく姿を消す。しかし、中国の詩となれば、難しい漢字が多く、写植やタイプでは対応できない。地方に僅かに残っている活版の会社に頼まねばならない。そんな時代背景が思われる。いまならばパソコンで簡単にできる。
花崎さんは、大学生のころから漢詩に親しみ、この原稿を書き始め、途中戦争にあったりして中断したり、推敲を重ねたりして、五十年以上たってようやく脱稿したという。この本の発行時は八十歳を越えていた。