2010年12月20日

博士の愛した数式 

小川洋子   新潮社   03.8
 有名なといえば有名だが、読んだ人は案外少ないのではないか。
 わたしもようやく読む機会を持った。
 家政婦として働き、一人息子を育てる30歳ほどの女性。新たに行くことになったところは、記憶を失う天才数学者。「失った」ではなく「失う」。
 記憶は80分しか継続しない。それ以前のことは忘れてしまう。若いとき研究した数学は憶えている。そしてタイガースの江夏の大ファン。
 家政婦の仕事が始まったのは1992年の3月。博士はその17年前までの記憶はあるのに、それ以降の新しい記憶はない。冷房設備のない離れに一人で住んでいる。家政婦は毎日仕事に行くと、自己紹介から始まる。

「君の靴のサイズはいくつかね」
「24です」
「ほお、実に潔い数字だ。4の階乗だ」

   …
「君の電話番号は何番かね」
「576の1455です」
「576の1455だって? 素晴らしいじゃないか。1億までの間に存在する素数の個数に等しいとは」


 毎日こんな会話から仕事が始める。なにしろ記憶は80分しかもたない。買い物で外出しても80分以内に帰らないと、また自己紹介から始まることになる。
 タイガースファンで10歳になる家政婦の息子も一緒になって、博士の生活を支えていく。
 どのような数字であっても、こうして意味のある数字にしてしまう。博士というだけあってその数学のレベルは高い。その話に付きあって、なんとか理解しようとする家政婦。
 夢中になって読んでしまう。
 いろいろ面白い数学の話があるが、最後のだけ紹介。
「2以外の全ての素数は二種類に分類されると、知っているかね」
   …
「nを自然数として、4n+1か4n−1か。二つに一つだ」
「無限にある素数が全部、そのたった二つに分けられるんですか」

   …
「前者の素数は常に二つの二乗和で表せる。しかし後者決して表せない」
 例えばnが3ならば4×3+1=13は、13=2×2+3×3となる。
 家政婦ばかりでなく、読んでいるわたしも驚いてしまうこんな話があちこちにあるのだ。
 江夏の背番号「28」は完全数。そう言う言葉もはじめて知った。こういう数学の専門用語があちこちに出てくる。考えてみると、碁の専門用語も知らない人から見るとこんなようなものか。
 図書館で数頁を読んで、止めることができなくなって、すぐに借り出した。その次の日までに読んでしまった。
posted by たくせん(謫仙) at 11:24| Comment(6) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんわ
私はこの作品を映画で見ました。
とっても静かに、お話が進んでいきます。
大好きな映画の一つです。

大きくなったルート君が学校で数学を教える姿でラストは、なんともいえない感動が静かに心に染み込んで来ました。

私も、「蒼穹の昴」を読み終わったら、この本を探してみたいと思いました。
その時は、また大哥のこの記事で原作者を確認させていただきますね。
Posted by xihuan at 2010年12月20日 21:50
xi妹
映画になったんですか。知りませんでしたm(__)m。
少年ルート君が数学の先生になる結末はじんとしますね。
毎回記憶をなくしているはずなのに、まるで記憶しているような結末。
また、ルート君が、母親に「博士を信頼していない」と抗議するシーンもありました。

「蒼穹の昴」はまだブログをはじめる前に読んだので、書庫では紹介していませんが、感動した小説です。
宦官というものが、必ずしも否定される存在ではない。そのいい面もあることを示しています。だからといって、もちろん肯定することはできませんけど…

著者のこの方面の知識にも脱帽です。
Posted by たくせん(謫仙) at 2010年12月21日 19:31
 こんばんは。
 この作品、小説も読みましたし、映画も見ました。
 映画もかなりいい出来でしたよ。原作つきの映画って、なかなか難しい(最近「ノルウェイの森」を見てつくづく思いました)ものですが、これは成功した例でしょうね。
 
Posted by 樽井 at 2010年12月22日 22:45
樽井さん
できのよかった映画なんですね。
ドラマは、原作を超えるどころか、原作なみになるのも難しい。
最近金庸ドラマを見ていて、わたしもそう思いました。
今見ている書剣恩仇録も改編しつけ加えた部分が、かなりできはいいのに金庸の原作に及ばない。飽きてしまいます。そんな時に原作はいかに優れているかを痛感します。
いつか機会があったら見てみたいと思っています。その前に見たい物が多く……
Posted by たくせん(謫仙) at 2010年12月23日 16:18
妻の買った本があるのですが・・・
そして、この映画化は上田や小諸で行われたのですが・・・
そして妻が本を買った・・・

来年読んでみます。(もう鬼は笑わないかと・・・  笑)

今年も、素適な考えを聞かせていただきました。
たた、中国関係が多くてなかなかコメントできませんでした。
裏返せば私のところもマニアックなところが有りまして・・・(笑)

来年も気の向いたときにお伺いします。
今年一年、ありがとうございました。

後わずかな来る年もよろしくお願いいたします。
よき年をお迎えください。
Posted by オコジョ at 2010年12月31日 22:29
オコジョさん
新年おめでとうございます。
ブログは全てどこかマニアックなところがありまして…、
それを読みに行きますから。

この本、読み始めたら止まらなくなって、夕食の時間がずいぶんずれました(^。^)。

今年もよろしくお願いします。
Posted by たくせん(謫仙) at 2011年01月01日 09:03
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