
宝生財閥の娘宝生麗子は国立署に勤める刑事。殺人事件の担当だ。上司は風祭警部、中堅自動車メーカー風祭モーターズの息子で無能。
宝生麗子にとって、無能の上司は悩みの種だが、出身を隠して警察に勤める宝生麗子とて決して優秀とは言いがたい。
自宅に帰り、一ヶ月前に雇った若い執事の影山に事件の話をする。
「失礼ながらお嬢様、――この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」
まるで万歳の一組の如き会話があって、影山は美事に推理してみせる。執事も珍しいが、雇って一ヶ月なのに「お嬢様はアホ」と言える執事はなかなかいないだろう。
この会話が実に面白いのだ。宝生麗子と風祭警部との会話も同じ。
二件目の事件では、
その日の朝、宝生麗子がダテ眼鏡をしていると、
「どうなさいました、お嬢様。確か目だけはよろしかったはずでは?」
中略
「さっき『目だけは』って言わなかった?」
「いいえ、申しておりません。空耳では?」
こんな会話のあとで、警察から帰って、事件の話を影山に話すと、
「失礼ながらお嬢様、ひょっとしてお嬢様の目は節穴でございますか」
まくらの話がここに続いているのだ。話には無駄がない。
全6話。こうして情報を事前に与えられても、わたしにはまったく推理できない。それなのに影山は話を聞いただけで真相を見抜く。
楽しめるミステリーだ。