2011年04月25日

中原の虹

浅田次郎   講談社   06.9

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 蒼穹の昴・珍妃の井戸に続く近代中国小説である。
 清朝の末期、清の故地満洲では馬賊が跋扈していた。本来各地の自警団であったが、他の自警団を襲うようになり、馬賊化していく。
 李鴻章なきあと、袁世凱が有力者であったが、実際に満洲に赴いたのは徐世昌であった。満洲では馬賊を形の上では帰順させたが、実際には独立状態であった。
 その馬賊の中に一際優れた者がいた。古都奉天の近く新民府を縄張りとする張作霖である。その張作霖の下に一千元壮士といわれた李春雷が入った。張作霖に腕を買われたのだ。そこからこの物語は始まる。
 李春雷は、少年のとき家族を捨てて家を出た。そして壮士となり張作霖の下に行き、行動を共にする。李春雷から見た張作霖の物語。
 張作霖は騎馬隊四千をつれて官軍として働き、膨大な報酬を徐世昌に要求する。もちろん徐世昌は応じないわけにはいかない。
 報酬は十万元と十万発の弾薬。持っている四千騎の騎馬隊。
 徐世昌は袁世凱にそう報告したが、袁世凱は張作霖を将軍に出世されようとする。
 そうではない、「あの男は、満洲を乗っ取るつもりだぞ」
 帰順したのも、そういう遠大な計画の一部なのであった。
 徐世昌は西太后に謁見する。西太后は意外にも物わかりのいい女であった。そしてそばにいる宦官は李春雲。どうやら李春雷の弟らしい。
 それでいながら光緒帝は冷遇されていた。
 このとき1907年ころ日露戦争が終わって間もないころである。光緒帝は1908年に死去している。だから光緒帝の亡くなる寸前ということになる。
 そして正月、奉天に向かう吉村という日本軍人がいた。馬賊に襲われるが、李春雷など張作霖の部下に助けられる。そこで知る張作霖たちの様子。
 ここまで第一巻。
  
 北京では西太后が死期を迎えていた。そして次の皇帝に三歳の溥儀(宣統帝)を指名し、光緒帝と共に亡くなる。西洋列強の餌食とならないための、西太后の決断と苦悩が第二巻。
 西太后の当面の目的はこの清帝国を滅ぼすこと。そして革命により新しい中国に生まれ変わらせること。
 ところが光緒帝は頭がいいので、日本のマネをして活かそうとする。しかし清のような大国は日本のような小国のやり方ではうまくいかない。光緒帝では清は西洋列強に分割されてしまう。と考えた。それで光緒帝を南海(紫禁城の西にある人造湖)に押し込め、自ら執政する。
 このあたりの論理がどうも納得できない。光緒帝がダメで溥儀ならいいというのが、判らない。三歳の溥儀でいいなら、誰でもよさそうに思える。自分が清を支えながら目的は清を滅ぼすというのが、わたしには意味不明。

 この中で第一巻の視点ともいえる李春雷と第二巻の西太后の支え役である李春雲の兄弟は架空の人物。あくまでも小説なのである。

 この小説は清朝の運命について語っているといえよう。
 その昔、明が自滅したとき、皇帝となるべき者が持つ龍玉を九龍壁に塗り込んだ。そこへ来た李自成は、龍玉を見つけることができず滅んでいった。清の軍は北京を占領したとき、幼い順治帝フーリンが九龍壁に触れると、龍玉が飛び込んできた。そうして中国の皇帝となった。そして乾隆帝はこの龍玉を隠してしまう。それから清は衰えを見せた。いまは張作霖の若い息子張学良が持っていた。
 清の興国の話と龍玉を失い滅亡していく話が同時進行している。中心は亡国の話で、第三巻ではついに皇帝は退位し、孫文の中華民国が興って勢力を広げていく。しかし東北三省は張作霖の独立国状態になっている。

 第4巻では、袁世凱がうまく立ち回り皇帝となるが、わずか100日で帝政を変わらせることになる。そして張作霖が長城を越えて中原にいく。
 明朝が衰えて北の清が長城を越え中原を征服する。清朝が衰えて北の張作霖が長城を越える。このよく似た二つの状況を一本の小説にした。
 ただし矛盾がある。龍玉を手にした順治帝フーリンは中原の皇帝となり、龍玉をなくして清朝は衰微した。この理から龍玉を手にした張学良は皇帝になるか大統領くらいにはなるはず。そうならなければ矛盾する。小説の前提が間違っていることになる。
 二つの話、別々の小説にした方がよさそうだ。
posted by たくせん(謫仙) at 08:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も「蒼穹の昴むを読み終わって、今「中原の虹」の第一巻を読んでいます。「珍妃の井戸」は興味はあるのですが、読んでないです。
中国の広大な大地と悠久の歴史を舞台にしたスケール大きさを楽しんでいます。
Posted by xihuan at 2011年04月25日 16:26
xi妹
スケールの大きさは、日本では把握できないほどですね。行くだけでも一ヶ月もかかるような遠いところまでどう治めるか。
西太后はそのような国は日本のようなやり方では治められないと見切っています。

「珍妃の井戸」も面白かった小説ですよ。
阿吉妹は「マンチュリ…」を読んだといっていましたので、わたしも読もうと思っています。
Posted by たくせん(謫仙) at 2011年04月26日 06:59
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