2011年07月20日

壱里島奇譚

梶尾真治   祥伝社   2010.9
 天草灘にある離島「壱里島(いちりじま)」。突然、パワースポットとなった伝説の島のファンタジー。
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 梶尾真治は「サラマンダー殲滅」や「黄泉がえり」などのを読んでいる。
 初期の「サラマンダー殲滅」などの話は、何をやっても思惑通りにはいかないが、なんとか解決するというような、一筋縄ではいかない話が多かった。「黄泉がえり」はほっとするような癒やし系の話。この本はそれをさらに進めて、懐かしくて、読んでいてうれしくなる話である。
 宮口翔一は、仕事はうまくいかず、社内恋愛の彼女に振られ、辞表を手にしていたとき、常務に呼ばれ壱里島出張を命じられる。「おもしろたわし」なる不思議な物産があり、その製造法などの知識を手に入れるためだった。
 島へ行ってみると、島民は温かく迎えてくれ、居心地のいい島で、帰りたくなくなるほど。会社に連絡をとると、常務なる人物はおらず、出したはずのない辞表は受け取られて退職あつかいされていた。
 島もいいことばかりではない。町は財政赤字が大きく崩壊寸前であった。町長は核廃棄物の貯蔵庫にして財政問題を解決しようとする。翔一はその反対運動に加わることになる。
 ところが人間的には町長は素晴らしい人で、反対する前町長は優れているとはいいがたい人物。
 翔一たちは核廃棄物の貯蔵庫の反対運動をしながら島起こしに力を注ぐ。
 この島の魑魅(すだま)に助けられて、ついに成し遂げるのだが、その魑魅も魅力的。
 最後にはどんでん返しもあるが、それも素直に受け入れられる。
 そのとき、読者は福島の原発問題を思い浮かべることになるだろう。核のゴミが放射線をまき散らすと、島は人の住めない所になる。
 島民や魑魅(すだま)はそれを避けたいのである。

 わたしはこのとき、 たくせんの中国世界−蘭嶼10あとがき、核廃棄物 の話を思い出す。
 あの風格ある社会を壊したのは核廃棄物貯蔵庫による、経済利益であった。貧しい島民を思えば、ただ反対するだけではどうにもならず、島起こしをしなければならない。
 この本はその島起こしのファンタジーである。
posted by たくせん(謫仙) at 08:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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