表題作をはじめとする短編三話
江戸末期の、きれいな話ばかりではない、それでも命がけで懸命に生きた庶民の裏表に光を当て、生活ぶりを紹介する。ページ数が少ないせいもあるが、一気に読んでしまった。
鮮魚師
江戸の町の台所を潤す、銚子から江戸への、鮮魚の輸送ルートを巡る事件を、千葉周作が解決する。鮮魚を運ぶにも新しいルートが開発され、古いルートに頼っていると、失業の憂き目に遭う。現代にも通じる技術革新の話と、懸命に生きた江戸庶民の話。
天保糞尿伝
江戸の町は糞尿が肥料として売買されていた。世界でも希有のシステムを利用して、寿阿弥が水野忠邦の改革を失敗させる話。
あとがきにも書いてあるが、江戸の社会を理想的なリサイクル社会と賛美する声が大きいが、当時はリサイクルとして考えていた訳ではなく、しかもそのマイナス面も大きかった。情緒的な江戸礼賛は危険という。
蛍狩殺人事件
常磐津の師匠文字春が蛍狩りの夜に殺される。勝小吉がその謎を解く。勝小吉とは勝海舟の父だ。
当時の庶民は、表は粋でも裏ではそれなりの生活をしている。決して誰もが楽に暮らしていたわけではない。特に女は生きにくかったであろう。
藝が身を助ける不幸せ という言葉を思い出す。