2012年02月20日

おまえさん

宮部みゆき   講談社   2011.9

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 わたしの書庫で宮部みゆきの紹介は初めてだが、何冊か読んでいる。
 この「おまえさん」は「ぼんくら」「日暮らし」と続くシリーズの第3作目だ。事件は新しい事件で、続きではない。
 八丁堀同心の井筒平四郎は子供がいない。ご新造の実家(商人)に弓之助という美形の少年(14歳)がいる。この少年を跡継ぎにという話もあるが、決まっているわけではない。この弓之助とその友人のおでこの三太郎。この三人で事件の解決にあたる。もっとも政五郎という実力のある小者(正規の役人ではない)をよく使っている。
 弓之助は推理力の持ち主。おでこはこどもながら政五郎の手下で記憶力がある。この記憶は記録と同じで、意味が判っているのではない。思い出すには時間がかかり、話の途中で腰を折ると、初めからやり直ししなければならない。今回はおでこの過去が判ってくる。

 痒み止めの新薬を売り出して繁盛していた瓶屋(かめや)の主人新兵衛が殺される。捜査していると、生薬の世界での二十年前の事件が浮かんでくる。
 薬屋を中心にして、いろいろ雑多なことが起こるが、それが自然で面白い。ストレートに必要な事だけを取り上げる、クイズのような小説もあるが、実際の捜査は自分たちで雑多な中から必要なものを選りだす。その過程が捜査だ。
 若い(二十歳)同心の間島信之輔とその大叔父の源右衛門も登場。捜査には重要な役どころ。

 上巻591頁に政五郎が「朱房の十手をぐいと腰にねじ込み直した。」という地の文がある。
 小者は房なしのはずと思ったが、ネットで調べてみるとどうもはっきりしない。
 同心の平四郎は房つきの十手を持っているはず。

 平四郎の気に入りに、総菜屋のお徳という肝の据わった女がいる。お徳がふたりの娘を預かって、仕事を教えている。その一人がおもん。
「おもんちゃんには、ぜいたくとおいしいが、まだ一緒なんだなぁ」
「ぜいたくとおいしいは違うの?」
「違うよう」

 なんて会話が光る。
 ストーリーなどは紹介しないが、人間の観察力が確か。

 三田誠広の「天気の好い日は小説を書こう」に、小説の基本として、
☆リアリティーがあるか
☆自然であるか
☆人間が描かれているか
☆書き手の人間観が妥当であるか

 という条件をあげている。宮部みゆきの小説はこの条件に当てはまる。

 下巻に入ると、間もなく「名探偵、皆を集めて『さて』と言い」がある。名探偵は弓之助。ただし、一方的に説明するのではなく、討議をしながら、謎を解いていく。
 一応事件は解明するが、犯人には逃げられてしまう。そして新しい話になる。話の中心は変わるが、犯人捜しは続いていく。
 この小説は金庸小説に似て、正邪がはっきりしない。文治の世界なので、名目では正邪ははっきりしているが、正が邪に変わり、邪が正に変わる。こどもの弓之助は絡まった人間関係を解きほぐせるか。犯人も同じくで、人の心の奥を知ることができるか。読み終えて複雑な心境になる。
posted by たくせん(謫仙) at 07:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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