2012年07月29日

鋼の魂 僕僕先生

鋼の魂 僕僕先生
仁木英之   新潮社   2012.4

     haganenotamasii.jpg
 僕僕先生シリーズの六冊目である。雲南に入った僕僕先生や王弁などの一行は吐蕃を目指していた。
 昆明を通り洱海まで来た。そこは洱海の南にある大国「南詔」により他の五国が圧迫を受けていた。後に洱海のあたりは大理になるが、その前が南詔であった。して見ると南詔がまだ周辺を征服していないころの話となる。
 南詔に圧迫を受けた人たちが、洱海のさらに北、程海のほとりに新しく小さな集落を作っていた。元々あった集落もあるが、土地に余裕があるため、新しい小さな開拓地があちこちにある。と言っても条件の悪い狭いところだ。
 南詔は程海まで手を伸ばしていた。
 さて、その程海には宝があるという話が伝わっていて、唐から「捜宝人」が密かに来ていた。捜宝人の宋格之と宋格之を仇と狙う美少女紫蘭が、ふたりで大勢の孤児を育てていた。
 元から程海のほとりに住んでいた馬銀槍たちも困っていた。
 程海は北からは吐蕃に狙われ、北東からは唐に狙われ、南からは南詔に圧迫されている。うっかり吐蕃や唐に援助を頼めば、それを口実に占領されてしまう。裏では裏の争いもある。対立をあおったり、占領の機会を狙ったり。
 僕僕先生たちは湖の神の秘密を探りに湖底に行くことになる。底には嫦娥とその侍女がいた。嫦娥の協力もえて、鋼人を捜し当てた。鋼人は「刑天」という神であった。黄帝と炎帝の争いで炎帝側になった。敗北したが生き残り、孤児たちを育てたという。そしてその孤児を守るため首がなくなっても戦い続けたという。その刑天の力もあり南詔を退ける。
 南詔に圧迫され、移り住んできた人たちは、それなりの方法で抵抗していたが、まわりを信じられず、協力をしない人たちだった。
 馬銀槍や宋格之が、バラバラなその人たちをまとめ上げるあたりがクライマックス。
 今回の話の中心は、戦乱孤児と孤児を守り厳しく暖かく育てる話であろうか。刑天もそんな神だったのだ。だから刑天の話にはもう少し頁を使って欲しい。これだと、話題に乗っただけとも言える。

 殺し屋の劉欽と彼にすっかり懐いてしまった女の子蒼芽香も出番が多い。劉欽の生き方が、この物語に深みを与えている。逆に先生と王弁は出番が少なくまるで脇役だ。
 それでも、もし王弁がいないと、シリアスな話になって読みにくそう。王弁も少しは成長したのかな。
posted by たくせん(謫仙) at 11:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読了されたのですね。

雲南に旅行した時の事を思い出しながら読みました。

>今回の話の中心は、戦乱孤児と孤児を守り厳しく暖かく育てる話であろうか。刑天もそんな神だったのだ。だから刑天の話にはもう少し頁を使って欲しい。これだと、話題に乗っただけとも言える。

確かに。刑天ってなんだろう?と私も思いました。
Posted by 阿吉 at 2012年08月07日 18:28
阿吉さん
刑天とは初めて聞く名前。著者の創作だろうかと思いながら読みました。
美女嫦娥はヒキガエルで「蟾蜍(せんじょ)」とも呼ばれる、とは知っていたので、それは違和感がありませんでした。
あの雲南旅行の思い出は、この小説に深みを与えますねえ。崇聖寺には「南詔建極大鐘」と言われる巨大な釣鐘があります。武侠の旅行のときは見ませんでしたけど、わたしはその前に見ています。
http://takusen.seesaa.net/article/17228676.html
そのためか、南詔という国が後に洱海のあたりを征服する前はこんな風だったのか、と思いながら読みました。
Posted by 謫仙 at 2012年08月09日 20:53
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