2007年04月21日

風よ、万里を翔けよ

   田中芳樹    中央公論社  1998.9
 隋王朝の末期、僅か5〜6年の間に、絶頂の国が一転して滅んでいく、その大乱の時代を、男装して戦場で過ごした伝説の美少女、花木蘭(かもくらん)の物語である。
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 隋の煬帝(ようだい)は、決して凡庸ではない。
 だが、多少の才があろうとも、最後まで努力する粘着力はなかった。
 百十三万の軍を従えて高句麗遠征を行うが、三十万以上の戦死者を出し、遠征は失敗に終わる。
 失敗の主な原因は、この百万を越える軍の、補給ができなかったからである。二百万の補給部隊を用意したが、あまりに遠いため、補給部隊が、戦地に到るまでに補給物資を消耗してしまい、戦地に着くころは空荷となってしまうのだ。
 更に北国の厳しさがある。華北では風が吹くことを削風という。南方の穏やかな風ではない。
 翌年更に愚行を重ね、同じように敗退する。この二度の遠征で国力が底をついたといえよう。
 これからあちこちで反乱が頻発する。そして三度目の遠征の失敗は亡国を決定づけた。

 花木蘭は二度の遠征に参加し、その後は反乱の討伐に当たる。その軍は河南討捕軍といい、将を張須陀という。
 出征の時に知り合い、常に共に行動した賀廷玉と花木蘭は、張須陀の副将となる。
 河南討捕軍は十倍の敵に当たろうとも連戦連勝した。しかし報いられず、張須陀は戦死。これを以て、事実上、隋帝国は滅んだといえる。
 煬帝は建康(南京)に移るが、もはや支配地域はないに等しい。花木蘭と賀廷玉は煬帝に同行し、建康に行く。ここでも数々の修羅場をくぐることになる。

 こうして九年間、ほとんどを戦場で過ごした花木蘭は、賀廷玉を伴い故郷へ帰る。
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 注:煬帝はヨウダイと読む。ヨウテイではない。あまりの非道にテイに値しないとして、ダイと読むようになった。
 この手の話は割引して読まねばならない。
 王朝を簒奪したものは、それを正当づけるため、前王朝を貶めるからである。ヨウダイと習慣的に読まれているが、ヨウテイが正しいという説もある。
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 花木蘭は数え十七歳の時に出征した。その時に知り合い、九年間を共に過ごした賀廷玉が、美貌の花木蘭を女と気付かないとは、信じられない。こんな場合、荒唐無稽と切り捨てる人がいるが、わたしはこれがこの物語のおもしろさであると思う。

 わたしは基本的に、設定はどう決めようと問題とは思わない。だがその設定上ありえないミスは気になる。
 SF小説はそれが基本である。
 白人のターザンが、熱帯で生きていくのはかまわないが、日焼けしないのは問題。
 スーパーマンが空を飛ぶのはかまわないが、そのエネルギーを普通の食事からとっているのは問題。太陽の炎の中を通ってまだ生きているのも、衣類が燃えないのも問題。
 さらに、祖星の人たちがスーパーマンでないのは、もっと問題。
 SFとは、このような矛盾を無くすことが大事である。

 この花木蘭も伝説の人物で、時代・年齢・出身地・ストーリーなど、諸説ある。
 わたしはこういう歴史小説はSFと思って読んでいる。
posted by たくせん(謫仙) at 08:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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