徳間書店 ２０００
射鵰英雄伝の続編である。登場人物の中心は子供たちの代になっている。
あの天才黄蓉は、子育てはうまくない。まるで別人のようだ。もともと、社会常識なぞおかまいなしの小悪魔である。孤島で育ち、子供のときに、まわりの大人の子育ての様子を見る機会がなかった故か。
射鵰英雄伝の敵役の子である楊過の、修行・成長の物語だが、小龍女との１６年間の純愛は壮絶である。
現代では、あってもおかしくないが、当時は師と弟子とは親子と見なされ、近親相姦のように思われていた。原題は神鵰侠侶だが、誤解の恐れがあると、神鵰剣侠にしている。
浮浪児となっていた楊過は郭靖・黄蓉夫妻に引き取られる。だが黄蓉は自分の子とは差別して接するため、楊過は素直になれない。
見かねた郭靖は、全真教に預ける。ところがそこで陰湿ないじめに遭い、逃げ出したところを小龍女にあい弟子となる。
小龍女はただ一人で古墳の中で古墓派という武術を守っていた。
古墓とはいうものの、実は全真教の教祖がゲリラ活動のための食料庫として作って、判らないように、古墓のようにしたのである。教祖の恋人がここに住むことになり、古墓派と称したが、すでに亡くなり、２代目小龍女が老婆と住んでいた。
その老婆が子どもの楊過を気に入り、育てたいと言うが、小龍女は拒絶する。老婆と楊過は出ていこうとして、老婆は全真教徒に殺されてしまう。
その老婆の今際の頼みで、小龍女は楊過を弟子として育てることになる。楊過が成長すると二人は恋仲になるが、世間には認められない。紆余曲折をえて、二人は婚約するが、周囲は軽蔑の目を向ける。師弟は親子というのは漢族だけの習慣で、蒙古族などは二人を祝福する。
結局、お金の存在さえ知らなかったほどの世間知らずの小龍女は、楊過のために身を引く。
二人は別れ別れになり、さまようが、たとえばこんな話がある。
絶情谷というところに小龍女が迷い込む。そこは別天地で、大きな屋敷もある。その主（公孫止）が小龍女を助け、悩みを聞き、求婚する。一度はそれを受け入れる。
ところが公孫止は、昔妻を娶って、妻の武功を習得したが、下女とできて、下女は妻に殺されてしまう。それを恨んで、妻の手足の筋を切り穴の中に置き去りにする。娘が一人いた。
楊過が小龍女を助けようとすると、楊過と公孫止の一人娘は、落とし穴に落とされてしまう。その深い穴の底は水だったので助かるが、水から出るとそこには十数年前に置き去りにされた妻（娘の母）が生きていた。
こんな風にはじめは聖人君子と思われていた公孫止が、その妻共々とんでもない悪党。このあたりの戦いは毒と毒消しを巡る戦い。なんとか小龍女を助け出すが、公孫止の妻から毒消しを与えるから郭靖と黄蓉の首を取ってこいといわれる。こんな風に、江湖の争いは形は礼を尽くしても、結局は騙し合いだったりする。
このころ楊過は郭靖と黄蓉の二人を父親の仇と思いこみ、何とかして討とうとする。ところが、二人は大英雄として尊敬を集めており、襄陽城を元軍から守るため、奮闘していた。楊過のためにもいろいろと手を尽くす。
恋愛と仇と義理の親子の複雑な関係が不幸を招くことになる。
楊過は誤解により郭靖の一人娘に右腕を切り落とされる。
楊過は、荒野で一羽の鵰（鷲）に出会い、そこで秘伝書を手に入れ、剣の修行をする。そしてともに旅に出ることになる。
小龍女と再会し、結婚するが、二人は毒によって、先の短い命となっていた。小龍女が命がけで楊過の毒消しを手にするが、小龍女の毒が消せなくては意味がないと、毒消しを捨ててしまう。その後毒消しの可能性を見つけたとき、楊過に毒消しを飲ませるため、小龍女は１６年後の再会を約束し姿を消してしまう。つまり小龍女は自分の死を楊過に見せまいとしたのだ。
楊過は、常に鵰とともに江湖を渡り歩き、１６年間小龍女を待っていた。
こうして恋愛的な面ばかり紹介したが、江湖の争いばかりでなく、元軍との襄陽の戦いなど、見所いっぱいの物語である。
この小説は大河ドラマとなった。それは詳細に「たくせんの中国世界－神鵰侠侶」に書いた。設定はあまり変えていないので、そちらも見てください。
たとえば郭襄の話や師姉李莫愁の話なども書いています。
