雪乃紗衣 角川書店 2003.10〜2011.7 全十八巻


彩雲国(さいうんこく)物語は中華風ファンタジー。名前や制度などが唐に似ている。しかし同じではない。あくまでも唐風だ。後に漫画になり(見ていない)、アニメになっている。
わたしはアニメを先に見た。面白いのだが、ローマ字字幕なのであちこちで混乱してしまった。とにかく人物が誰が誰だか判らない。10回目あたりから中国語字幕になって、ようやく名前の区別がつくようになった。途中で終わる。
日本語では彩雲国は王国で王は主上と呼ばれるが、中国語は帝国で皇帝は皇上と呼ばれていた。
あらすじはウィキを引用する。
架空の国、彩雲国を舞台に名門紅家直系長姫ながら貧乏生活を送っている紅秀麗が、あるきっかけで「官吏になりたい」と一度諦めた夢を追い求め叶えようとする物語。
昏君(バカ王)を演じていた劉輝や王の側近である絳攸らの尽力によって官吏となるも、州牧に大抜擢されたかと思うと冗官(無位無官の官吏)に落とされるなど、毀誉褒貶の激しい人生を送る。
その過程で建国にもかかわったとされる「彩八仙」にもかかわってゆき、最期には王からの寵愛を一身に受け妃となり、女児を産み、その短い生涯に幕を閉じ終劇となる。
原作があることを知り、図書館で見つけて読んだ。ようやく、意味が理解できた箇所が多々。
貧乏貴族紅家のお嬢さん紅秀麗が、家計を助けるため王の教育係として後宮に入る。そして退くと、官吏になる。その間いろんな人が絡んでくる。
最初の疑問は何で貧乏なのかということ。この本を読み始めてすっきりした。と同時に新しい疑問が生じる。紅秀麗の父は、裏では(裏社会ではなく、政治の裏側)大変な実力の持ち主。なので飢えるほどの貧乏になったのが疑問になった。
少女向けライトノベルなので、言葉は厳密ではない。
物語が進むに従って意外に奥が深いことが判る。上に書いた疑問など、片隅問題で片付いてしまう。
初めは官としての出世競争かと思った。紅秀麗本人は、官となって世の中をよくしたい一心であり、まわりの人を応援したりするにしても、形は出世競争になる。
それで紅秀麗は無意識だが、派閥争いに巻き込まれる。官である以上仕方ない。しかし、王の臣としての派閥ばかりではなく、国試の官僚と貴族の勢力争いでもあり、地方閥の争いでもあり、さらに大きく王派と非王派の争いでもあった。なんと王族にも王を認めない高官がいる。腹の中では“王位継承順位は私が上だった。王位をよこせ”と。
大官長老は王を人形くらいにしか思っていない。
それらの争いも明確に区分される訳ではない。争っていることにも気がつかないほど曖昧だ。
遠大な計画で、王の側近が次々と左遷されていき、王の手足となる官僚は、少女の紅秀麗ひとりとなってしまう。ただし紅秀麗は部署の仕事があり王のそばにいる訳ではない。
そうなってはっと気づくのだった。
静蘭はこういうやり方が絶妙にうまい人を知っていた。
(この、詰め碁のように隙のない勝負の仕掛け方−)
静蘭が何度挑んでも、ついに一度も勝てなかった。どんなに先を読んでもさらに先を読み、とっくに負けていることさえ静蘭に気づかせずに勝負を決めた。
短い文章ながら正確。ここ以外にも何カ所か「碁を打った」などという記述があるが、実際の打碁の記述はない。著者は碁を知っていそう。
特に「とっくに負けていることさえ静蘭に気づかせずに…」に迫力を感じる。
それから、「手元に碁石がなかった」という表現もある。信頼できる頼める人物がいないの意味。
言葉は平成語も多く使う。
半端ない。頑張れよ自分。ちょううれしい。いーじゃん。こんな言葉がつぎつぎと出てくる。「わたしのが強い」これはちょっと考えてしまった。略されているのはどうやら「方が」らしい。つまり「わたしの方が強い」だ。
それでも、親の世代は高官らしくきちんとした言葉を使う(でもないか)。難しい漢語もそれらしく使いこなし、多くは仮名を振っている。「常用漢字」には吹き出したが、彩雲国でも「常用漢字」はあるだろう。
全体的に、後から「実は……」ということが多い。それで矛盾していないか、調べる気にはならないが、心配になってくる。特に、現王を否定している実力者は前回のクーデターのとき、つまり前王を殺したとき、若い現王を即位させておいて、大人になったらまたクーデターを行おうとするのが理解できない。
物語は面白かった。よくぞここまで構想できたと感心してしまう。ところどころで、ラノベとは思えないほど、深い洞察を示す。
結局、現王と紅秀麗の夢が実現したといっていいのではないか。戦はせずできる限り人は殺さず、平和で豊かな世界を目指した。女性にも活躍の場を与え、人の平等を目指した。
紅秀麗が夢に向かって疾走する。それを読者は見守ることになる。