2007年05月18日

すべて辛抱

    著 半村良   毎日新聞社   01.4
 半村良の作品は、「晴れた空」以外はほとんど読んだつもりだったが、なんと図書館にまだ読んでいない本があった。「すべて辛抱」
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 江戸の終わりが近づくころ。鹿沼の田舎で、ふたりの子どもを育てる女がいた。農作業の手間賃で暮らしながら、我が子亥吉と孤児千造を育て、お寺の和尚に手習いをさせていた。このままではふたりとも一生農家の下男でしかない。学問を身につけさせて、江戸に出したい。以後は己で道を切り開け。
 天保の大飢饉を乗り切った後、ふたりの子どもが11歳の時、江戸の商店に預ける。そして、それが一生の別れとなる。
 亥吉は運良く薬種問屋の下野屋という大店に預けられたが、千造は騙されたような形で働かされ、すぐに家出して、強盗団の一味として、亥吉の前に現れる。
 大人になってから、また逢ったふたりは、協力してつねに時代の先端を行く商売を考えながら、江戸の町を生きていく。
 先端を行く商売をしながら、競争相手が現れると身を引いてしまう。世は松平定信の時代だ。緊縮財政で、贅沢は禁じられているため、余り儲けすぎると身の破滅になる。そうしながら亥吉の感性は時代の変化を感じ取っていた。今までの身分制度になんの疑問も思わなかったのが、武士も町人も同じ人だと思うようになったのだ。
 そうして幕末を思ったふたりは、薩摩長州軍と幕府軍の戦争を思い、それから財を保全するため、戦争の影響がもっとも少ないと思われる所を探し、そこに財を移す。
 その間にやった商売は、薬種問屋・呉服屋・料理屋それから独立して(薬種問屋が没落したため)、福助人形・食べ物屋(女房にやらせる)・ガラス細工。ここで、元の雇い主である薬種問屋の主に有り金すべて600両を騙し取られ、やり直すことになる。
 食べ物屋(女房にやらせる)・時代屋(流行品)・皮革の函・金融・長屋の家主。こうして江戸の戦争を予期して鳥越に居を移す。

 当時の人の生活の様子がイキイキと映し出されていく。杉浦日向子さんや石川英輔さんが江戸の案内人として有名だが、半村良も引けをとらない。時流に乗れない貧しい人々の生活の様子も書かれている。それは時流に乗れた人と比較することによって引き立つ。
 半村良は、お江戸の表ばかりでなく、裏面も書いているので小説としての奥が深い。

 母親が極貧にあえぎながら子どもに学問を身につけさせたのも立派。そして、教えた寺の和尚も極貧の中で地面に字を書いて教えたが、文字だけでなく、生きる術や考え方なども教えて、11歳にしてなんとか生きることができるようにしたのも立派。このふたりのこの後の消息はない。
posted by たくせん(謫仙) at 14:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
生きるということは、本当は、大変なようです。
現在は、そうした感覚が薄れてきているようですね。
しかし、自分は、いかに、いい加減に生きたかと反省しきりです。
最もこれは取り戻せません・・・
でも、取り戻そうとは、思いませんが・・・

今は、良い時代なのか・・・
それは、わかリません・・

でも、こうして生きた人々に感動は出来るようです。
Posted by オコジョ at 2007年05月19日 21:40
オコジョさん。
わたしのまわりの人たち誰もが、詳しく聞くと苦難の人生を歩んでいます。
若い人たちは、大学に行くのが当然のようで、なんと恵まれた人たちであろうかと思いますが、それなりに苦難はあるようです。
この物語はその時代にとって、最も必要なこと大事なことを子供に教えることができた親や和尚は、素晴らしい人ではないかと感動しました。
特に親は学問ということを何も知らず、和尚に任せたところで、つまり和尚の人格を見抜いたところで親の責任を果たしたといえます。
11歳で独立。厳しいですね。
Posted by 謫仙 at 2007年05月20日 07:44
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