「楊家将演義」の完訳刊行記念トークイベントを聞きに行ってきた。
開演前に岡崎先生と話をする機会があった。
楊家将について、
もともとは、小説として書かれたものではなく、講談などの種本なので、現代小説から見るとあちこち物足りないところがあるでしょうね。講談や芝居など、いろいろある話を演者によって作者によって変えたり膨らましたりして、いつの間にか原本とはかけ離れたものになってしまう。それを次の世代に原本と勘違いした作者が、それをさらに手を加える。こうなると名前だけ楊家将でも全然違った話になる。テレビドラマでも同じ。
こんな話をしてから、トークイベントの会場に向かった。
松浦智子さんも来ていて、話に加わった。若い女性なのでびっくり。それだけに今までになかった話を聞けたりした。
たとえば、何々軍とは独立した小領主の自分の軍隊で、国の傭兵部隊となり、高い報酬に引かれて、移動してしまう。もともと忠義心などないに等しい。その本拠地は「村」と訳したが大きなかたまった一軒(一群?)の家に一族何千人もの人が暮らしている。岡崎先生もご存じだったがわたしには聞く機会がなかった。
楊家将の一部分で封神演義みたいになるが、中国では常に仙界の話は身近にあるので、どんな時代に出てきてもおかしくない。諸葛孔明の八卦陣もそれに近いのではないか。
さらに土屋文子さんもいらしていた。岡崎先生の師妹(正しくは学妹)である。いつもながら、武侠関係者に女性がなんと多いこと。
秋梨惟喬さんは芥川龍之介の「鼻」の例をだして、その基になる話があるが、その30倍にも膨らんでいる。昔の人は簡潔な文から30倍もの情報を得たのではないか、という。
「馬に踏み殺された」。その文だけで、戦って何度も傷を負い苦しみながら落馬して、結局何度も馬に蹴られたり踏まれたりして息絶える。そこまで説明なくても想像できたのではないかと。
岳飛伝もそうだが、燕雲十六州を取り戻せという主張がある。しかし、その思想はこれらの物語の作られた明代の主張を反映していると思われる。
終わってから、岡崎由美さん秋梨惟喬さん松浦智子さんを含めて、11人で二次会。
秋梨惟喬さんには「矢澤潤二の微妙な陰謀」という著作がある。
トンデモ本というのがある。そこに書かれたことはもっともらしいが、常識を働かせれば、多くは素人でも嘘を見破れる。
この連作短編集は、各編の主人公たちを、矢澤潤二がトンデモ情報をもっともらしく解説し、説得するのだ。
この小説の続きは書いていますか、と訊いたところ、書いてはいるのだが、一冊にまとまるのはまだだいぶ先になりそう、と言っていた。

九年花雕酒