井上祐美子 中央公論社 2014.10

宋の時代、包青天と言われた判官がいた。名は包拯(ほうしょう・ほうじょう)字は希仁。28歳にして科挙に合格し、地方の知(知事)となり、後に都開封の東半分開封県の知となる。
清廉潔白、裁きは公平。晴れ渡った空のごとし、人よんで包青天。北宋第4代皇帝・仁宗に仕えた実在の政治家である。
包希仁の話は、日本では大岡政談のモデルといわれている。
中国では何度も小説やドラマになっているらしいが、あいにくわたしは見たことがなかった。この井上祐美子の小説で初めて接することになる。(もしかすると二回目?)
五編の連作短編集である。
登場人物は包希仁のほか、「孫懐徳」という年配の下役人、転落する運命から助けられた「楊宗之」という書生で、三人を中心にしたミステリー。
主人公の希仁は若い(?)ながら、達観していて、富貴を求めず、いつの間にか弱き人々を助けているが、話が終わってみると、けっこう推理力や洞察力があり、細かく予測していたことが判る。
それでいながら、日常はけっこうとぼけている。机の上のものを落としたり、墨で服を汚したり、知でありながら書生の格好をしていたり。そのギャップが親しめる。
さて、これらの話、著者の全くの創作だろうか、伝わっている講談や劇の小説化だろうか、知りたいところだ。続きが読みたいが書いてくれるかな。
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南唐の皇帝で後主李Uというのが地の文に出てくる。しかし李Uは王であり皇帝にはなっていない。(初代が皇帝、二代目は皇帝として即位し後に王となる、三代目李Uは王として即位した)
いろいろと登場人物に架空の人物が出てくるとはいえ、地の文で王を皇帝というのは、小説でも許されないのではないか。
三田村鳶魚なら、そんなことも判らないのか。と言うところ。
金庸なら、登場人物の設定はけっこう変えているが(たとえば大理の皇統)、地の文を変えたところは気がつかなかった。