石川英輔 小学館 2012.8
著者は江戸文化の研究家でもあり、作家でもある。
今までにいろいろと江戸の文化や生活の評論や小説を書いている。そのため新しく書いたとはいえ、読んでいて既読感のある話ばかり。それでも楽しく読めた。
その中から「江戸生活のしあわせ」に的を絞った。この中で江戸庶民は貧しいながら、身の丈に合わせて生きることで幸せ感を得ていることを力説している。特に省エネ省資源生活を強調する。
実際、九尺二間の狭いひと間で、荷物はほとんどなく、共同トイレで、銭湯に行く、と言うと貧しい生活だが、昭和の半ばまで、そんな生活をしている人が多かった。多くの人がそうだったので、それほど不幸とは思わなかったであろう。
ただいつも思うが、その裏でその江戸の富を生産する地方の人々の生活や、虐げられた人の生活、差別の故に苦海に身を沈める女性たち、そんな視線がほしいと思うことがある。
地方で食い詰めた人が、飢え死にする前に江戸に出ることができた。江戸なら何とか食える。そこで前と比較して幸せ感を得られるのではないか。独身者だから何とか生きている程度だ。幸せといっても何とか食える程度なのだ。
省エネやリサイクルも極端に生産性が低いので、つまり周りもきわめて低収入生活なので可能なのであろう。仕方なくそんな生活をしているわけで、それで満足しているとは思えない。本当に幸せ感を持っているか疑問に思ってしまうのだ。本当に省エネ省資源なのか。持続可能なのか。
そんな中の、「身の丈に合わせて生きる幸せ」、というプラスの部分に焦点をあわせた本である。
本書に限らないが、著者のいう「持続可能な社会」が望ましいという趣旨は大賛成だ。
化石燃料に頼る文明は、化石燃料の枯渇により衰退する。石油・石炭・天然ガス、化石ではないがウランも枯渇が近い。その前に環境の悪化によって終末を迎えようとしている。
現在の科学文明は、産業革命以来数百年しか経っていない。にもかかわらず、終末が議論されている。
今世界が注目しているのが縄文文化だといわれる。発生から終末まで一万年以上持続した。
そう考えると、江戸時代は悪いばかりではない。特に現代の倫理観念で判断を下すと、誤るかもしれない。マイナス面をしっかり見つめることも忘れてはならない。