2007年05月29日

大洪水の義捐金

 1998年夏、長江流域は百年来の大洪水であった。わたしはその時そこをツアー旅行した。武漢では旅行団で洪水被害の義捐金を出し、そのことが新聞の投書欄に載った。 たくせんの中国世界−濁流の長江参照
 その投稿者と連絡がとれて次のような意見の交換があった。濁流の長江には載せなかったが、内容は問題ないと思われるので、ここに公開させて頂く。教授は仮名です。

    教授謫仙架空対談

謫仙 義捐金の感謝状のコピー、頂きました。
教授 旅行社の方で発送などやってくれたのですよ。「濁流の長江」読みましたよ。私も文章には自信があるのですが、わたしより文章力のある人がいるわいと思って、何度も読みました。
 中国語学習会の会員の方に配ってまだ余りがありますか。あったら3部頂けないものでしょうか。
謫仙 はい。いつでもコピーできますから。
教授 義捐金に対してもいろいろな考えの人がいるなと思いました。
謫仙 わたしも悪いこととは思っていません。ただ、あのお金が困っている人に届くかどうかは否定的に考えています。それにあなたの投書ですが、賛成しかねる所があります。
 一日十元ではとても生活できないと思います。わずか五万円で、全員満足して帰国したと言うのは、ちょっと恥ずかしい。大して寄付していない私が言うのも恥ずかしいけれど。もちろん、趣旨は素晴らしいことだとは思います。
教授 投書の内容は少し削られました。
「栄誉賞まで頂いた。」の次に「物価の差から百万円近い基金となるはずで」が削られ、「全員満足して帰国した」に続きます。
謫仙 それなら判ります。百万円なら大げさではありません。でも私はそうは思えません。たとえば、張さんは年収九千元(約十四万円)と言っていましたが、これは表向きで、実際はこの四五倍はあると思われます。つまり、五万円は張さんの月給にも満たない金額です。
 恐らく一日の生活費は十元どころか百元を超えると思います。
教授 どうしてそんなになるんですか。
謫仙 中国では誰に訊いても、月給は八百元と言います。これは税金対策のための本給で(当時は800元を超えると所得税がかかったので、それをこえた部分はすべて手当にした)、四千元くらいの手当が付きます。多い人は一万元(月給)にもなるそうです。
 今では、日本に来るよりも中国で働いた方がお金になるので、留学生の数がかなり減ったそうです。ただし、これは先進地域の話で、神農渓のように年収三百元の人もいるわけで、先進地域と後進地域が混在している国だと思います。
 帰国してまもなくの九月のニュースで、このような税金のがれが禁じられるとありました。
教授 そんな事情で百万円の部分が削られたのでしょうか。
 ところで、傍若無人な人を弁護するのはいくら何でも賛成できません。ああいう態度が現地の対日感情の悪化につながるのではありませんか。せっかく外国旅行で出かけて交流をしても全く無駄になってしまいますし。
謫仙 そうですが、中国人の態度も問題だと思います。日本人の対中感情の悪化を招くことを何とも思っていないでしょう。
 添乗員も言いました、「他の旅行と違って中国旅行は必ず帰りに『中国だけは二度と行きたくない』と言う人がいます」など、中国側の服務態度が日本人の対中感情の悪化を招いている例でしょう。
教授 しかしそれも日本人的な考え方でしょう。日本ではお金を払う方がお客様と呼ばれ威張っていますが、世界は様々です。逆の場合も考えられるでしょう。
 日本人としては外国人の対日感情の悪化を心配すべきで、対中感情の悪化は中国人が考えることではないですか。もちろんそのための助言は惜しみません。
謫仙 それも程度問題でしょう。対日感情の悪化を心配ばかりでは、俗に言う「つけあがらす」のではありませんか。例えば政治の世界では気配りばかりで、かえって侮られています。もっとも中国の政治家のように傲岸不遜では、形式的にはうまくいっているようでも、実態はなかなかですが。
 わたしはその場その場で苦情を言うのがお互いのためだと思います。
教授 もちろんそれは大切です。ですがあの「姉ちゃんビール冷えてないよ」と日本語で叫ぶ苦情の言い方では、ためにならない。顰蹙を買うだけです。アジアではあんな態度でも欧米に行くとなにも言えない。これは国民的な課題だと思います。
(後で知ったが、中国ではあまり冷やさないのが普通、今でも冷やさないことが多いという)
謫仙 恥ずかしいですね。それが日本ではリーダー的な立場の人のようですし。でもああいう人は日本でも顰蹙を買うと思います。残念ながら日本では道義的なリーダーと経済や政治のリーダーが一致しない。
教授 ところで、この4行の意味を説明していただけませんか。
(学生の旅行と老後の楽しみの旅行とは違う。彼らはすでに代金を払っている。今はそのサービスを受け取る時だ。
 西洋人は代金を払ってサービスを受け取っている。中国人はサービスを受けないが代金も払わない。黙っていては、日本人は代金を払ってもサービスを受けないで済まされてしまう。彼らの振る舞いによって我々もサービスを受けられるのではないか)

謫仙 去年、わたしの先生(女性)が中国南部(シーサンバンナなど)に旅行しました。上海に着く予定が、天気が悪く北京に着いてしまいました。
 欧米人はすぐにホテルに案内され、日本人と中国人は空港で夜を明かす羽目になりました。
 先生は抗議しましたが、他の人は誰も抗議しないためそのままです。その上、上海に行く飛行機代を請求されました。これは抗議して撤回させたそうです。上海のホテル代などの損害は返してもらえません。
 先生の結論の要旨。中国は格安旅行はすべきでない。サービスが済むまでお金を払ってはならない。払ってしまえば以後はまじめにサービスしない。
 欧米人の場合は抗議することが判っているため、なにも言わなくても優先的にホテルに送るが、日本人は抗議できないため、安心してサービスに手を抜きごまかす。とにかく苦情を言うこと。中国人客はもともと格安料金なのでサービスは期待していない。
(旅行の約款に、そのような場合の対策について書いてあるかどうか確認できないので、これだけでは、必ずしも不当な扱いとはいえない)
かなりきつい表現ですが、実際はもっと穏やかな言い方をしました。だから趣旨が違っているかもしれません。その場合は先生に申し訳ありませんが。
 先生は中国から日本に来て十年以上たち、このころからサービスの概念を理解したようです。
 これで説明になったでしょうか。泥棒にも三分の理と言いますが、その三分の理を知った上の発言かどうか、わたしはそれを知りたかったのです。
 ここで注意しなければならないのは、この内容が正しいかどうか、わたしには確認できないことです。
 拙文の最後に各地の反乱のことを書きましたが、何度か聞いたのに公式記録は目にしません。教授のような国際的な方に確認を期待するところです。
 ビールについて言えば、なぜ、苦情を言われる前に冷えたビールを持ってこないのか。
教授 趣旨は判りますが、納得しかねます。海外旅行者は民間レベルの親善使節であり、旅行者の言動は現地の人々の対日感情となり、その積み重ねが、外交関係に反映すると考えて良いのではないでしょうか。
謫仙 わたしも理屈に無理があると思っています。特に個人と所属する団体を同一視することです。一口に何々人といっても多様ですから。
 物価にしても原文は二十倍ですが、わたしのイメージでは二三倍です。安いようでも品質は劣りますから、同品質ならその程度と思います。これとて近いかどうか。わたしが基準にしたのはホテル代・ビール・水・入園料などです。生活様式が違うのに比較する難しさがあります。
 失礼ですが、教授は日本の米の値段を知っていますか。銘柄米ならキロ五百円程度ですが、いわゆる標準米は。また、中国の米はどちらと比べるべきか。まるで江戸時代の物価を調べるようなもどかしさがあります。
 ところで私の方から訊きたいのですが、寄付金集めなど私が最も苦手とすることなので、いきさつなど教えていただきたいのですが。
教授 これも理屈だけでは解決できない多くの難しさがあります。黄鶴号の船上で彼女から相談を受けたとき、募金の方法やその行き先を、具体時に整理して示さないと失敗すると懸念しました。幸い添乗員の松浦さんやガイドの張さんが、よく研究して事前の準備をしてくれました。結果的にはまあまあ成功したと言えるでしょう。
 私は日本社会にとって、国際化・福祉化・情報化の三つが最も重要な話題と考えており、市民の側からも常に声を大にして訴えるべきだと信じています。
 先日の募金活動とその投書は、良い機会と考えました。
謫仙 「方法や行き先を具体的に」。これは本当に難しいと思います。たとえば公的機関では普通の税金となんの区別もありませんし、民間団体では信用できるかどうか。国際親善にはなったと思いますが、困っている人に届いたかどうかは、否定的に考えています。
 邪推と思いますが、軍事予算を増やしたかもしれません。(寄付がなければ、その分援助に回さねばならない)。
 後でこの件について考えました。国際親善とはこのようなパフォーマンスで成り立ち、実際の援助は無意味でも良いのではないかと。
教授 それは言い過ぎです。間違いです。しかし、世論にアピールすることは大切です。私は今まで研究論文を、専門誌ばかりでなく大衆紙にも掲載してもらい、アピールを心がけてきました。今回もタイミングが良かったので採用されたようです。
 活字にしておくことは、お判りのように、本当に大切なことです。あなたも是非参考にしてください。
posted by たくせん(謫仙) at 10:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 山房筆記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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