
人はなぜ似非科学(=トンデモ話)に騙されるのか 。
超能力、火星人、心霊術……。カール・セーガンの渾身の科学エッセイである。
二十年ほど前の本であるが内容は古くない。
アメリカでは現在でも、キリスト教的歴史を信じている人が多く、40パーセントだかの人が進化論を否定しているという。それはかまわないが、聖書の記録を信じて何千年か前に宇宙ができたと信じているというのに驚く。
日本人の初詣でとかお盆とかクリスマスなどは、儀式化していて宗教的に信じている人などいないと思っていたが、けっこう信じている人がいるらしい。そんな風に程度の差こそあれ、人々は似非科学に動かされている。著者はキリスト教にも厳しい目を向ける。
P42
「魔女は存在する」と主張する人たちの言い分は「もしも魔女が存在しないなら、どうしてこんなことが起こるのか?」
内容はともかく、これでは論理的に答えになっていない。まるで安倍首相の答弁だ。
科学と似非科学の差は批判に耐えるかどうかだ。科学は批判にさらされ、証明できず否定されることもある。それでも批判を受けいれれば科学だ。似非科学は批判を許さない。権威者だからと盲信するな、少しでも疑問があれば疑え問え。
このことをいろいろな例を出して説明している。これがこの本の主題だ。
その例として、宇宙人の話もおもしろい。
宇宙人にさらわれた経験のあるアメリカ人は2パーセントいるという。そのやられたことはたいしたことではない。宇宙人が特にアメリカ人を選んだとは思えないので、全世界の2パーセントとすれば一億人を超えることになる。
何万光年の彼方から来る能力のある宇宙人が、そんなせこいことをするか、一億人もの人を誘拐するか。そして全世界の政府がそれに防御をとらないのか。
そう考えればとても宇宙人が人をさらうとは思えないし、地球にいるとも思えない。だが宇宙人が地球にいると思っている人は大勢いる。
UFOも同じく。気球や人工衛星など、ほとんど原因がわかっている話を何度もUFOと蒸し返す。
人は顔を認識するような本能がある。嬰児は母の顔を見ればにっこり笑う。この能力があるから生き延びられた。しかし、何かの模様を見ると顔に思えるとなると、幻覚というマイナス面になる。それが強いと悪霊を作り出すことになる。
レーガン元大統領は先の大戦の時の記憶を語る。調べてみると、大戦中はずっとハリウッドにいた。自分の演じた役が刷り込まれているのだ。
警察が証拠を重要視するのも、やっていないことも、記憶に刷り込まれてしまい、やったと白状することがあるからだ。
日本人なら元旦に新年の幸を祈る。それにもかかわらず、不幸な年になったりする。欧州なら国民は王の長寿を祈る。だがそれによって長寿になった王はいないと思える。これらの祈りは効かなかったのではないか。つまり科学的ではないのだ。
この本は冗長すぎると感じることが多々ある。しかし、書き終えてまもなくなくなっているので、そうしてまで書いておきたかったのに違いない。