北森 鴻 浅野里沙子 新潮社 2014.12
短編集である。2010年に亡くなった北森鴻の、いまだ単行本化されていなかった鬼無里・奇偶論の2編に加え、プロットのみ残されていた表題作天鬼越を浅野里沙子が小説化し、さらに浅野里沙子が模倣した3編を加えた。もちろん蓮丈那智シリーズである。
主人公の那智と記述役の三國が、ホームズとワトソンのようにバランスがとれていておもしろい。
ナマハゲなどの古い祭祀や秘祭の考察と、それに絡んだ事件への考察の鋭さ。何気ない行動にも意味があって、それを元に推理する。
銭形平次はなにゆえ神田明神下に居住しなければならなかったか。
という学生への課題を残して鬼無里を研究に行くが、これも事件の解決のヒントになる。
ふっと、三田村鳶魚(みたむら えんぎょ)の大衆文藝評判記を思い出す。
神田明神下には棟割り長屋はない。
民俗学とは
真贋など、どうでもいい。なぜ偽書が作られるのか、重要なのはそれだけだ。
という基本姿勢は変わっていない。
蛇足ながら、蓮丈那智は東敬大学に研究室を持つ。そして怜悧な頭脳と美貌といくら飲んでも酔わない体の持ち主。民俗学の世界では異端者として扱われている。