
忠臣蔵を中心にして元禄の世を丁寧に解説している。
あとがきに
五代将軍綱吉は、カネを使いまくることは知っていたが、−略−利殖することを知らなかった。
浅野内匠頭は自藩の塩専売が商業資本の蓄積につながることを知らなかった。
吉良上野介は、賄賂が社会慣行を円滑に動かしていくシステムであることは判っていたが、なぜそうなるかを理解していなかった。
大石内蔵助以下の赤穂浪士は封建社会においてベストとされるモラルに殉じた。
−略−
誰も自分たちを見えない手で操っているのが、貨幣経済のからくりであることを知らない。
貨幣経済に操られる、カネがカネを生む現代社会の始まりが、この元禄の時代だったのだ。
たとえば、浅野内匠頭が吉良上野介に意地悪をされたとか、その原因が理不尽な賄賂を払わなかったからと言われるが、それは理不尽な賄賂ではなく正当な謝礼である。
その正当な謝礼を払う際に、インフレを考慮せずに昔の価格ですまそうとしたことが問題だったといわれる。
正当な謝礼なるものが、賄賂のような形で払われた。江戸幕府が出費すべきことなのに、大名に押しつけた(払わせた)。この政治制度の欠陥が事件の引き金といえよう。
前半の時代を見つめる目も、後半の討ち入りの説明も、資料に基づいて、判っていることと創作された部分とを分けて、判りやすく解説している。
問題はそれらの資料の信憑性だが、その検証は専門家に任すしかない。