虚空(そら)の旅人
上橋菜穂子 新潮社 2008.8
「精霊の守り人」の冒険から3年後、14歳になった「新ヨゴ皇国」の皇太子チャグムと、星読(ほしよみ)博士のシュガが、サンガル王国の新王の即位式に招かれて危難に遭遇。バルサは思い出に出るのみ。
チャグムが成長している。皇太子としての覚悟が出来ている。これが頼もしい。しかも権力欲に汚されていない。
海洋国家サンガル王国の国土や政治、民族特に漁民の風俗生活ぶりが生き生きとかかれている。
現王が元気だが新王を即位させるのも、この国の特徴。そして女たちが意外に権力があって活躍する。
新ヨゴ皇国の南に海に突き出た半島のサンガル王国は海の諸島も支配している。しかしその支配は緩やか。主な島守の妻は王女。
南の大陸のタルシュ帝国がサンガル王国を狙っていて、今までの作品に出てきた国々も脅威を感じることになる。
まず海域から侵略と、島民たちを利用しようとする。それに乗せられるものもいる。
島守のリーダー格のアドルは、次のように考える。
(賢いカリーナ。おまえは、サンガル王家が消えたときどうする? 俺がやったことは裏切りではなくて、おれたちの暮らしを守るためのもっともよい選択だったのだとわかってくれるかな)
夫の態度に疑問にもつ王子に、妻のカリーナ(王女)は言う。
「ヤドカリが、それまでの殻を捨てて、大きな殻の下に入ろうとしているようなものでしょう。タルシュ帝国は自分たちの血を流さないでサンガルを手に入れようと…」
夫のアドルが利用されていることを見抜いている。
シュガがチャグムに協力する関係になっている。
「わたしは、殿下に誓いましたから。―陰謀を知りながら、だれかを見殺しにするようなことは、決して、させぬと」
「清い、輝く魂を身に秘めたままで、政をおこなえる方がいることを、わたしは信じます」
未来を暗示する言葉だ。
タルシュ帝国の最初の接触はくじいたが、そこまでで、続きがあることを感じさせる。