小松左京 徳間書店 1987(2011.11)

小松左京の最後の作品であるが未完である。本来三冊であったが一冊に合本した(2011)。
第一巻と第二巻が1987年、第三巻が2000年、以後続きは出ていない。
地球から5.8光年の距離に突如出現した、長さ2光年、直径1.2光年という驚異的スケールの円筒形の物体「SS」。
透けていて、その向こうにある星が見える。そして時々消えてしまい、角度などを変えて再現する。その距離を移動するには光速以上の早さが必要。
探査に直接人間が赴くには距離的時間的に困難であるため、人工知性体をその宇宙域に送ることになる。
選ばれたのは、若き天才人工知能開発者・遠藤秀夫がAIを越える物として開発していた「人工実存(AE)」HEUだった。遠藤秀夫の分身である。
今話題のディープラーニングによるAIでは無理なのだ。与えられた任務だけではなく、向こうに行ってから、自分で目的や行動を考えなければならないからだ。
しかし、出発して49年後、連絡をとる地球の遠藤秀夫が亡くなった情報が入り、HEUは連絡を止め、独自の行動をとりはじめる。なにしろ、いま情報を送っても、届くのは5年9ヶ月かかる。返事が届いたとして11年半後。果たして今の星域にいるかどうか。
こうして物語は始まっていく。
HEUは人型の分身を作るが、長い間、特定の仕事をさせているうちに個性を持つようになる。結局6人の仮装人格が得意な仕事を分担することになる。
SSでは様々な知性体と遭遇する。対立する異星知性体もいる。あちこちの知性体がSSを調べようと、送り込んだのだった。
安易な手法は使わない。ワープで一瞬に飛ぶとか、異なった星域の宇宙生命体がいきなり英語で会話する、なんてことはない。
言葉はディープラーニングのようにして、元素の並び方を調べて、その並び方の特徴で意味を推測し、単語の一語一語を時間をかけて探し当てていく。
そして他星域の生命体と情報を交換して、どう調査するか話し合いがあって、さあこれからSSと接触を試みようとするところで、著者が亡くなった。
宇宙や生命や知性あるいは愛なども説いているが、たとえば新しい宇宙論とか、量子力学の話など、あまりにも難しく、わたしには読んでいて理解することが出来ない。いつもなら易しく説明するところ。それを省略しても先を書き進めたかったと思われる。
まず最初の疑問。仮にSSが光速なみの早さで動くとすれば、あるいは一瞬で動くとすればSSの直径が1.2光年なら、消えるときも一瞬ではなく、月が欠けていくように1.2年以上かかって、ゆっくりと欠けていくはず。出現も同じく。
円筒のあちこちまでの距離が違うからである。そして光速以上の早さで動くように思われる理由。この二つの疑問の答えは同じと思われる。
さらに、おそらく100億年以上前に現れたと思われ、まるで宇宙の誘蛾灯のように存在し、見た生命体を集める不思議な物体SS。SSは自然物か工作物か、知能はあるか。など、解明されておらず未完である。
AIとAEの差も分かりませんでしたけど、先日、ディープラーニングの説明をみて、突然この本を思い出しました。
今から30年も前に、こんなことを考えていたなんて、すごいです。
>異なった星域の宇宙生命体がいきなり英語で会話するなんてことはない。
だから、異なる生物の意思の疎通が、納得できるのです。
少し無理して読んで、今ではよかったと思っています。
碁は知っていますか。ディープラーニングという考え方は、だいぶ前からあったようです。しかし、グーグルは巨額の資金を投入しました。碁だけでも60億とか、並の企業で出来ることではありません。
逆に人間の脳は、こんなに素晴らしいのか、と実感させられました。
その人間の脳を再現したのがAEですね。AIからAEには、さらに数段の進歩が必要かと思います。異なる生物との意思の疎通・意見の交換は、その象徴のような話でした。
未完なのが残念です。