小松左京 筑摩書房 1975.7

小説の形を借りた、歴史や思想の解説である。
古ぼけたタイムマシンに乗り、時間旅行をして、歴史上の人物に架空インタビューをするという趣向。
アウストラロピテクス属・クレオパトラ・秦の始皇帝・アステカ王モテクソーマ・元寇の高麗将軍金方慶・足利義満・大内義弘・本居宣長。最後に仏の影まで出てくる。
著者の歴史についての相当な博識ぶりを披露している。また仏教論というか仏教哲学も読むに値する。
いま読み返してみても、内容は古くないと思う。
アウストラロピテクスは猿人なので、一方的にしゃべるばかりで相手は態度で示すのみ。意思は通じているらしい。現人類は必要以上に攻撃性を持っているとか。
クレオパトラには、日本では卑弥呼をはじめ、何人も女帝がたっていると教えるとか。
クレオパトラの目算違いは、ローマがあまりにも紊乱・野蛮・無秩序であったこと。
金方慶は、日本の外交政策の無知のため、元によって高麗は壊滅的被害を受けた話。もっとも恨むのは元であるべきで、日本を恨むのは筋違いなのだが。
足利義満の日本発展の大構想など。
仏教においては、仏陀の語ったことと、後の仏教のあり方が、あまりにかけ離れている話とか。
はじめは仏陀の像はなかったとか。地獄極楽はないとか。
釈迦は答えないとした4つの問い。
宇宙は永遠か、宇宙は有限か、霊魂と肉体は同一か、解脱したつまり如来は死後存続するか。
これは考えても生活実践の上に何の関係もない。だから答えない。それにもかかわらず、後に大展開してしまった。
こんな、著者の博覧強記ぶりを示す一冊。
この話をもう少し詳しく説明していただけないでしょうか。私は読んでいないのに、説明を求めてすみません。
元寇の話は一応はご存じと思います。
元はフビライ時代に宋を滅ぼし、中国を植民地としました。今の中国北部は漢人として現地人扱いですが、南部(旧南宋)は南蛮人として、低く見ました。征服した建前で平穏でしたが、江南の旧宋の20万の軍は目障りでした。これを滅ぼそうとして、日本派遣を命じたといいます。そのときの舟や輜重などは多くが高麗の負担となりました。もちろん軍人も派遣せねばなりません。それで、根こそぎといえるほど高麗は疲弊しました。
このとき日本が、フビライの要望に対して、普通の外交的対応をし、形だけでも交渉に応じていれば、実害はないし、元も日本に対し侵攻する名目も無くなり、高麗もその負担がなかったと思われます。
でも、ここで日本にしてみれば、そのような経験は無いし、高麗に対する配慮もする必要は感じなかったでしょう。早く言えば無知だったわけです。
高麗がそうしてもらいたかったら、事情を知らない日本に対し、陰で事情を説明し、そうするよう配慮すべきではないかと思います。その配慮をしないで恨むのは筋違いというわけです。結果、日本は高麗に侵略された被害者になりました。
本来は元がすべき戦争を、高麗は費用持ちで、代理戦争をさせられているわけですね。
代理戦争を拒否できなくて、攻め入った相手国を恨むのは筋違い。現代でもありそうな話です。
そういえば、まさに代理戦争ですね。もっとも高麗王は北京にいたし、江戸時代の弱小藩のような立場でしょうか。拒否できない立場です。
ただ、元南宋の20万の兵を捨てるためという説もあり、日本が適切な対応をしても、やはり別な目的で同じことをやらされた可能性が高いと思います。