小前 亮 文藝春秋 2014.3

山中新右衛門幸元。鴻池といえば大坂(大阪)の財閥だが、その始まりが、この人物である。なんと尼子一族の再興に生涯を捧げた山中鹿之助の息子とか。
戦国の世に、山中新右衛門が武士をやめ、商人として生きていく感動の物語である。
はじめ上質の木炭の販売を手がけ、それを横取りされると、酒の製造を始める。
落語で、こんな話がある。
不満を持った従業員が酒樽に灰を投入して逃げていった。それがなんと濁りが下にかたまり、清酒となっていた。これが清酒の始まりだ。
この小説でも、途中で似た話が噂となった。だが山中新右衛門は放っておく。競争相手がそんな話を信じているようではうまくいかないと。
徳川家が江戸を開発している。そこで、大坂で造った酒を江戸に運ぶ。ところが普通に運んでは痛んでしまう。その輸送にも苦心を重ねる。
大坂では他の蔵と五分の味でも、江戸に持っていくと圧倒的な人気を得る。
清酒造りの改革に成功し、物流の工夫も成功し、息子たちを分家したりして、大坂の財閥となる。
特に幼なじみである妻のはなと、仲睦まじく協力していく様子は心が温まる。
物を運ぶことは幸せを運ぶことだ。商人のこころである。