小前 亮 光文社 2015.8

残業は犯罪である。
このことをわたしは当然だと思うのだが、多くの人は「そんな馬鹿な…」と思うのではあるまいか。
三六協定という、使用者と従業員の契約があった場合、使用者は罰を免れる。従業員に残業をさせる企業(使用者)は、その協定を監督署に届け出ているのだが、ほとんどの従業員はその協定を知らず、協定書に署名捺印した従業員の代表でさえ、その内容を詳しくは知らないのが普通である。
この小説は、労働者を守るためにその残業に税金を賦課する。残業すると労使共に税金を払う必要がある法律が施行され、働き方が変わって行く。もちろんサービス残業は犯罪である。
税を免れようと企業(使用者)はあの手この手で脱税を企む。脱税を防ごうとする残業税調査官と企業の戦いである。
主人公の残業税調査官の相棒は、機密的な内容でも人前で大声で話す無神経な人物。読んでいてやりきれなかった。
この中で、ある女性は形だけの管理者になるが、税金逃れのためであり、実質は毎月200時間もの残業に苦しめられ、ついに他殺に近い自殺をしてしまう。
毎月200時間残業。わたしはこのような企業を知っている。賞与もかなり出ていた。実体は残業代を一部しか支払わず、残りをまとめて賞与として出していたに過ぎない。
この小説ではさらに悪質で、税理士の指導のもと、労働者に夢を与えて、そのためならサービス残業も仕方ない、と思うように教育する経営者。公的には残業時間が判らないようにしてあるのだ。
経営者(容疑者でもある)の世論操作で世論に叩かれながらも、働く人を守るべく奔走する調査官。ついに真相が明かされると、世論は一斉に経営者を叩く。
労働者の教育と、権利意識を高めなければ、この戦いは永遠に続きそうだ。
いま国会で働き方改革の議論をしているが、それを先取りしたような話だった。