梶尾真治 早川書房 2015.5

地球が太陽フレアに飲み込まれてしまいそう。
それに気づいた某国の大統領は家族や有力者たち三万人で、密かに地球を脱出し、172光年の彼方にある、地球によく似た星まで行こうとする。
残された人たちの中に天才がいて、ジャンプ(ワープ)する機械を発明し、ジャンプして先回りする。これは危険が伴って、無事に着いた人は数えるほど。
ここで疑問がいくつか浮かぶ。
172光年を旅行するのに宇宙船は1Gで加速を続け、中間点で逆に1Gの減速をして、常に1Gの圧力がかかるようにしている。これでエネルギーは足りるのか。
わたしには計算できないが、1年間1G加速し、その後は加速はやめて自転で1Gにして、最後に1年かけて1Gで減速すれば200年ほどで到達できるようだ。
問題はそのエネルギーだ。宇宙船全てをエネルギーに変えても無理と試算した人がいる。化石燃料ではない。宇宙船内の物質をエネルギーに変換してである。わたしには検証できない。
船内は人は数代にわたる。その生活物資は船内でリサイクル生産するが、船の燃料は尽きているようだ。
その巨大な宇宙船が、よく一財団で秘密裏に製造できたもの。
172光年も彼方に、地球によく似た星がよくも見つかったもの。
ジャンプ装置が短期間でよく製造されたもの。
これらの疑問はできたと仮定して、SF世界が展開する。
ジャンプした人たちが、裏切られた怨みを飲んで、復讐を合い言葉に一から文化文明を築く。しかし、代が進むとその意識は観念的になっていき、心の中で怨みはなくなる。
宇宙船内でも世代交代し、それなりの生活をしている。捨ててきた人たちのことなど、ほとんどの人は気にかけていない、知らないだろう。
この両者の生活ぶりを交代での連作短編集である。わたしの知っている伝統的なSFである。