2007年06月24日

神々のパラドックス

   薄井ゆうじ   講談社   1997.1
 最先端科学の蘊蓄と伝説を絡めた珠玉の短編集である。
 わたしの最も好む種類の本である。が、残念ながらなぜか夢中になれない。
 それなのにここに載せるのは気が引けるが、紹介するに値すると思う。

 無意味な文字の羅列から、暗号を解くように、意味を読み取ろうとする暗号を解くことを趣味とする人。しかしその文字の羅列は遺伝子記号だった。
 血管に入り病原を取り除く「ミクロの決死圏」を思わせる話。と引きこもった少年の自殺を見届けようという少女。

 アリゾナのバイオスフィアUのカフェテラスで
「いままでは科学は絶対だと思っていたんです。科学の確たる世界が心地よかったのですが、これからは、それらのひとつひとつと、僕の前に現れるかも知れない神々のそれぞれを疑ってかかろうと思っています」
と心の内を語り、ふっくらと笑う人。

 古代遺跡の発掘調査から得られる様々な情報に夢中になり、古代人の生活を体験しようとする研究者(女)。
 久しぶりに夫が訪ねていくと、
「奥様はいま縄文時代を旅していらっしゃるんです。連れ戻すのは、目覚めてからでも遅くないでしよう」
羽衣伝説と鶴女房の話を絡めた話。

 二千メートルの高層ビルに植える植物を依頼される人と、日本のピラミッド。

 若い美人の奥さんが亡くなり、そのいとこの奥さんに似た美人と再婚する教授。この話は本筋より脇の話を紹介する。
 ある学生がその教授にコーヒーを淹れてやると、いつも銘柄を当てようとするが当たった試しがない。再婚の話を訊くと、教授は答えずに、自分でコーヒーを淹れて、学生に飲ませる。それが美味い。
「○○はこう淹れるんだよ」
 銘柄を当てようとしているようで、わざとはずしていたらしい。

 こんなふうに本題と脇の話の絡まり具合が巧み。
posted by たくせん(謫仙) at 16:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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