上橋菜穂子 講談社 2014.9
「守人」シリーズや「獣の奏者」で知られた著者の、ファンタジーさながらの、エッセイである。
香蘭女学校のイギリス研修旅行の話、文化人類学を専攻して、オーストラリアでアボリジニと生活したフィールドワークの様子。また、好奇心旺盛な母との二十回に及ぶ外国観光旅行など、すべてユーモアでくるんで語られる旅の思い出話だ。
慣れぬ外国だ。当然困ったことや苦しんだことがあった。それが著者の筆で語られると、わくわくするような素敵な話に変身する。
たとえば、フロントという言葉がある。その失敗談からフロンティアという言葉に言及する。開拓する辺境ではない。領土を広げていけば、当然そこで異民族と衝突する。そこで葛藤が起こる。その異民族と接触する最前線がフロンティアである。というような話をし、「出会いの場」になって欲しい、「道を浮かびあがらせるものは剣ではなく灯であってほしい」と結ぶ。
そんな話を読んでいると、著者の小説が、異民族との接触の話であり、武器を取った戦いがあり、それを鎮め平和を求めて努力する人がいる、フロンティアの話であることを思い出す。
この本で語られる筆者の行動があってこそ、あのファンタジーが生き生きと語られたのだと感じる。