小前亮 光文社 2017.8

残業税の続編である。たたし、主人公などは変わっている。
残業税調査官が北軽井沢で死体で発見された。「残業税には欠陥がある」という言葉を残して。
国税局の大場莉英に上司から調査の命令が下る。
このあと、県警・警視庁・国税庁が、それぞれの立場から調査を行う。全面的に協力というわけではない。大場莉英などの行動が捜査の邪魔と考えることもある警視庁。
大場莉英の比率が小さく、誰が主人公か判らなくなりそう。もう少し視点を定めて欲しい。少なくとも、大場莉英の視点を多くして主人公と判るように。
砧が莉英に言う。
「私たちの目的は、脱税を取り締まることじゃない。適正な課税をおこなうことなの」
目的と手段を取り違えると、脱税を見つけて多額の追徴を獲った人が偉いと思ってしまう。脱税者がいなくなるようにするのが仕事なのだ。
前作で働き方改革を話題にしたが、少しづつでも進歩しているのだろうか。
中心が殺人事件捜査になったので、私的には減点。小説のできは良いと思える。
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追記
ある書評で、次のように言う人がいた。
こういう「働かせない」社会ってつまらないだろうな。気持ちが元気だと働けるもの。まぁ、限度はあるだろうけど。働きたい人には働かせて、収入や待遇に区別つけてくれればいいのに。
多くの人がこう思っているだろうな。わたしも趣旨は賛成だが、内容が問題。
まぁ、限度はあるだろうけど。
そう、その限度が最長8時間なのだ。だから残業は限度超過なのだ。
働きたい人には働かせて、
そうなると、残業をしたくない人にも強制するのが問題なのだ。
収入や待遇に区別つけてくれればいいのに。
小説では名目だけ役職者にして、残業代を払わずにすます企業が、問題になっている。事実上残業が強制になる。その事実上強制を防ぐためだ。
また、収入で区別しているようで、他のことでも差別することになる。残業代だけで終わる企業はない。
目的は、長時間働かせてはいけない、のだ。働いてはいけないのではない。
だから、長時間働きたい人は起業すればいいのだ。起業すれば仕事はいくらでもある。それならいくら働いてもかまわない。起業すれば、わずかの収入でいくら働いても、社会は許す。家族は……
この小説は、形だけの起業で実態は従業員、も見つめている。
人を雇用するときの制限
が、一日8時間なのだ。ここを勘違いしてはいけない。