2007年07月15日

ぶぶ漬け伝説の謎

    北森鴻  光文社  06.4
 裏京都ミステリー短編集
 知る人ぞ知るマイナーな嵐山の古刹大悲閣に、珍妙な事件が持ち込まれる。
        bubuchaduke.jpg
 元裏社会に生きた寺男の有馬次郎、マイナー新聞の記者折原けい、自称裏京都案内人のスチャラ男のムンちゃんが難事件の謎を追う……ようだが、折原けいとムンちゃんは犯人とはいわないまでもあおり役に近い。有馬次郎はそのふたりに邪魔されながらも解決する。
 なお嵐山の大悲閣は実在する寺である。

狐狸夢
 ムンちゃんが、裏京都案内に、かつてのガールフレンドの言葉、「未熟であること、孤独であることがわたしの二十歳の原点である」と書いたため、次郎は竹箒で殴りつける。
「高野悦子が自殺したのは1969年やんか、なんでお前が知ってんねん。」
うろたえるムンちゃん。
 狐そば狸そばの東京都と京都の違いによるミステリー創作譚。

ぶぶ漬け伝説の謎
 京都には有名なぶぶ漬け伝説がある。
 京都人のお宅を訪問して帰ろうとすると、「もっとゆっくりしはったらええのに。どうぞ、ぶぶ漬けでも食べていっておくれやす」と言われる。
 本気にして「では一杯だけ」と言って腰を落ち着ければ、何を言われるかわかったものではない。礼儀知らずに非常識、図々しい貧乏人、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられる。
 ところが、実際にそんな目に遭った人はおそらくいない。また生粋の京都人は、お客に対してそんな失礼なことはしない。
 で、ぶぶ漬けのからんだ殺人事件。
 くれぐれも京のぶぶ漬けには注意すんねんで。

悪縁断ち
ムンちゃんが縁切りの金比羅さんにいくと、二枚の形代の前で凍りついたという。
「夫・磯崎猛が浪費癖と縁が切れますように」
「父・磯崎猛が吝嗇癖と縁が切れますように」
 その磯崎猛の死体が発見された。古書のコレクターで金を惜しまないが、妻が入院してもその費用さえ出さない。日々の生活に困った家族は、なんとか古書を売ってしまおうと思うが…。

冬の刺客
 4本のみたらし団子が石碑に供えられていた。団子はひと串に4つしかない。これは人をかたどったもので5つでなければならない。頭の部分がなかった。
 折原けいは「4人を殺すという殺人予告ではないか」という記事をでっち上げる。がそれがもとで、不埒な思いをするものが現れた。折原けいは新聞社を辞職するはめに。

興ざめた馬を見よ
 老舗の主人が、うちなどまだまだ新参者です。先の戦の直後に京都に来たくらいですから、と謙遜して言う。それが応仁の乱のことだった。などとまことしやかに囁かれる京都。というのは、関係ない話だが。
 折原けいが恋愛中の相手を連れてくる。その男はかつての裏街道の同業者ではないか。
 さて、絵の馬が抜け出して交通事故? なんのためにそんな話が作られたか。その絵の持ち主の孫が、永久に家出をしたままになるらしい。それにからむかつての同業者。
 絵の汚れた原因を推理する有馬次郎。

白味噌伝説の謎
 白味噌とは色の白いみそで、作り方が違うのだろうと思っていたが、京都の白味噌にはなんと水飴が入っている。高カロリーだろうなあ。
 有馬次郎が買おうとした白味噌に、なんと毒が入っていた!!
 グリコ・森永事件の再来と騒がれるが、その店の奥さんが犯人だった。そこには、目に見えない姑と嫁の戦争が。
 次郎は裏を読んで、たいしたことではないと推測するが、住職はその裏を読んでみせる。
「ひとは時として、心の中に鬼を住ませてしまうんや。なあ有馬君。毒入り白味噌の評判が立ち、どこの家庭でもこの正月は雑煮を避けるとする。そんな時、例のお姑さんはどのような行動をとるだろうか。……」
 カロリー制限をされていて、白みその雑煮を食べるたびに体調を崩すお姑さんがどうなるか。
 仏といえども救うことかなわぬ魂が確かにある。
posted by たくせん(謫仙) at 07:37| Comment(0) | TrackBack(1) | 書庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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