22.11.4追記
みをつくし料理帖 天の梯(そらのかけはし)
田 郁(かおる) ハルキ文庫 2014.8
みをつくし料理帖はこの第10巻をもって完結した。
澪(みを)は享和2年の大阪の大水害で、幼くして親を亡くし、料理屋「天満一兆庵」の女将である芳(よし)に奉公人として引き取られる。
ある洪水の後、汁物の味が変わって、料理人たちが原因が判らず困っていたとき、澪は水の味が変わったことを指摘する。それで主人の嘉兵衛に見込まれ、女ながら料理人の修行をすることになる。
あるとき店は火事になり、大阪の店は再建せず、嘉兵衛とその妻芳と澪は江戸の支店に来るが、嘉兵衛の息子佐兵衛は店をつぶして、行方不明であった。心労で嘉兵衛は亡くなる。
澪(みを)は小さな店「つる家」で料理人として働き、芳と一緒に生活を続けた。
医師源斉の言葉「食は人の天なり」を励みに、人々が健やかに生きることを目指して、料理を作る。
こうして6年、幼なじみの野江が吉原にいることを知り、四千両を工面して救いだし、佐兵衛を料理人に戻して、江戸に天満一兆庵を再興させ、自分も医師源斉に嫁ぎ、ともに大阪に行き、新しい人生をはじめる。
その後、料理屋「みをつくし」を開店することになるはず。付録にある11年後の料理番付が暗示している。
超あらすじはこんなところだが、江戸の人の暮らしぶりや人情などかなり細かく描写されている。澪の料理の工夫ぶりも細かい。しかも架空の料理ではなく、小説の話をまとめたレシピまでついている。
最終話になり、ページが残り少ないのに問題解決の先が見えず心配したが、違和感なくまとまっている。話は始まりから終わりまで一貫して練られているので、読後は爽やかで後味が良い。
あちこちで涙が止まらなくなった。
たとえば、つる家には下足番となった十三歳の“ふき”がいる。ふきは七歳の弟健坊が奉公先の登龍楼に戻るのをいやがったとき、心を鬼にして「登龍楼に戻れ」と叱るあたり。
住む家もなく、二人で生きるすべもなく、幼い二人が生きてゆくために、ふきは苦渋の決断をしなければならなかったのだ。
その前に、健坊の初めての藪入りの時は、ふきは健坊をふきの奉公先つる家に連れてこず、登龍楼ちかくをふたりでうろうろして白玉を食べただけ。
つる家の皆は、ふきが健坊を連れてくると思っていたので残念がったが、ある人が、「そりゃあ、連れてくることはできないだろう」と、ふきの心情を喝破するところとか。
わたしはどうも、無力であるが故に選択肢がなく、無理を強いられる話に弱い。
心残りは、二人の少年(太一と健坊)が将来どうなるのかが、はっきりしないこと。サブキャラとはいえ、感情移入してしまった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
20.9 追加
後にドラマ化されたが、澪の料理に特化して、味が薄くなった。まさに料理帖だ。多くの登場人物が問題をかかえたままで終わってしまい、物足りなかった。
また映画化もしたが、この長い物語を一本の映画にまとめることは無理で、かなり省略して、設定も変えて、表面だけをさらったような感じで、見るのが辛いほど。原作を読んでいた故であろう。だから原作を知らなければ、それで良しとしかもしれない。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
22.11.4追記
さらに、ドラマの続編が作られていた。
みをつくし料理帖スペシャル前編 心星ひとつ 2019
みをつくし料理帖スペシャル後編 桜の宴 2019
かなり、原作に近い事情や心理面まで踏み込んでいて、ようやく纏まった感じだ。
澪の想い人・小松原との恋の行方や、幼なじみ・野江との今後を占う吉原・桜の宴で、采女宗馬と再び対決するエピソードを描いた続編。
ただし、結論までは至っていない。さらに続きがあるのかな。
黒木華の演技はこの物語にうってつけだ。顔つきも江戸時代らしい雰囲気で、グッと唇をかみしめる表情がいい。